甘い。苦い。
『腕時計、返す』
要らないと断っていたのだが、家まで来ると連絡が来たので、彼氏(もうすぐ元カレ)の家に近い喫茶店で待ち合わせをした。
「お久しぶり」
私が待ち合わせ時間より早く来たにも関わらず、すでにいた…。
「お久しぶり…」
彼氏(元カレと言っても過言ではない)の手元には、以前私がお渡ししたモノらしきものがあり、私が席に座るなり、
「返すよ…」
小さめの手提げ袋を私の元に置いた…。
「はい…」
包装されたまま、か…。
「じゃあ、さよなら…」
注文した飲み物が届いて、
「飲んでいいよ…」
そう言って、元カレは席を立って会計へ行ってしまった。
「はい。さようなら…」
その背中にそう言って、目の前にある甘ったるい匂いのする飲み物を一口飲んだ…。
「甘い…」
こんなに呆気ないものなのか…。
「はぁ…」
こんなにも喪失感がないものなのか…。会ってなかったからかな…。
「失礼いたします…」
テーブルでうなだれていたら、店員さんが飲み物を置いた…。
「頼んでませんけど…」
正確には、まだ何も注文してない…。
「先程、こちらの席に座られておりました男性からお連れ様に、と頼まれましたので…」
失礼いたします。と一礼して、店員さんは素敵な笑顔と共に去って行った…。
「苦い…」
元カレの粋な計らいに、不覚にも涙が溢れてしまった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます