上司との残業(4)

「もう俺にしない…?」

「何を、ですか…?」

 口数が多くなってきたのはもうすぐ彼女の残務である書類が終わる手前だと思い、チラッと後東ごとうさんの近くにある書類を見ると手元にある書類だけになっていた…。

「将来の嫁」

 嫁っ?

「後東さんが…?」

「俺が」

 頷いて、私の顔を見る。

「って、何で俺なんだよ…」

 上手いな…。ヘタなお笑い芸人より上手いわ…。

あんちゃんのことに決まってるでしょ…」

 久々に下の名前で呼ばれたので、ゾワッとした…。下の名前で呼ばれるのは好きじゃない…。

「パワハラで訴えますよ…?」

 後東さんの手が止まった。

「訴える前に、言いたいこと言って欲しいんだけど…」

 上司の顔をするから、

館花たちばなさんを他の事業所に異動。切実に希望します。彼女のスキルにあった部署に配置していただきたいです」

 言いたいことを言った。

 何故か後東さんは楽しそうに苦しそうにおなかをかかえて笑っている。

「執拗な求愛と杏ちゃんって言ったことに関して、じゃないの…?」

 確かに、そうだった…。

「あ、そうだった…」

 そう言うと、後東さんは更に笑っている…。

「河崎、最高だよ…」

 あぁ、笑った。笑った。と言って、

「はい。終わり」

 処理済みの書類がこちらに戻した後東さんに、

「お疲れ様でした」

 一礼して、顔を上げると、後東さんの真剣な顔があった…。

河崎かわさき、俺のこともっと真剣に考えてよ…」

 あぁ、それ毒盛り(砂糖多め)のコーヒーだよ。って言う前に、後東さんは私の近くに置いてある紙コップに口を付ける。

「冗談で言ってるワケじゃない…」

 甘い…。と言って、そのまま自分の席に持って行った…。

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