上司との残業

「さて…」

 今日中の仕事はないようだが、どうせ明日も同じことの繰り返し…。

「やりますか…」

 書類を持ち上げようとすると、

河崎かわさき、俺も手伝うよ…」

 後東ごとうさんの過去を知らなければ、この笑顔で落ちるのだろう…。それくらい彼は顔もよければ性格もよい。天が二物を与えたと言っても過言ではない。

「お構いなく」

 微笑んで、

「後東さんっ」

 自分の机の上にドサッと書類を置いた。

「河崎って、かっこいいよな…」

 後東さん、それって褒め言葉ですか…?

「同僚のフォローが出来るってさ…」

 言ってる傍から、書類を半分以上持って行ってしまった…。

「俺だったら、即、上司にチクるよ」

 あ、俺が上司だった…。と言いながら、書類に手を付ける。

「ごめん…」

 それでも目はPC画面を見ている後東さんは、

「本当なら左遷なんだけどさ…」

 向かい側の後東さんを睨んで、

「じゃあ、そうしてくださいよ…」

 それに気付いたのか、手を止めて私の顔を見る。

「何もしないで左遷させるのも館花たちばなちゃんが成長しないなと思いまして…」

 変顔で言うの、ダメだって…。

「親心ですか…」

 笑いを堪えながらそう言うと、

「うーん…」

 後東さんは少し悩んで、再びPC画面に目をやる。

「館花ちゃんって、ココに来る前に仕事らしい仕事してないのよ」

 あれじゃあ、仕事任せられないでしょ…。

「だから、親心でしょう…」

 そもそも、本人が仕事に向き合ってないから成長することもないと思うよ。

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