糊塗

イタイ彼女

 明らかに歳相応ではない服装(特に、その短いスカートの丈)に、「痛い」の言葉がぴったりな彼女に注意はしない。

 なぜならば、

「お疲れ様でしたっ」

 定時のチャイムと共に帰って行く。今日中の残務がなければいいのだが…。

「あぁ、待て。待て…」

 残務確認をしようと帰るのを止めるのは、

後東ごとう所長っ」

 後東さんに、その可愛さアピールは伝わんないぞ…。そもそも、三十代前半のオバサンが可愛さアピールって…、痛いだけだろ…。

「今日は本当に急ぎの用事がありましてっ」

 絶対、ないだろ。と思うのは、夜な夜な合コンを開催しては運命のヒトを探しているのだそうだ。お得意先の方から何件か聞いた話である。それがきっかけで、彼女は外部との接触を制限された。

「わかったから、残務教えて…?」

 後東さんは、帰ろうとする彼女を止めようと、

河崎かわさき、ちょっと…」

 と言われる前に、すでに私は彼女の肩を掴んでいた。

「机の上のモノ、全部かな…?」

 微笑んで、早く帰れとココロの中で呟く。

「はいっ」

 そして、彼女を開放した。

「お疲れ様でしたっ」

 万遍の笑みで帰る彼女は、何度教えても要領を得ない…。

 もう教えることは諦めた…。

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