第38話 忘れ物の回収

 スキル玉【アイテムボックス】を手に入れた俺達は山の中を歩いていた。決して山登りに来たわけではない。


「穴掘り穴掘り楽しみだー」

 ロンが歌っていた通りまた洞窟に向かっている。


「お兄ちゃん、まだアダマンタイン置いてあるかな? あれを売ったら大金持ちになるね」

 一方ニアは現実的なことを考えていた。お兄ちゃんもお金持ちになることは賛成だ。


 質量の問題で持ち運びができなかったアダマンタインを回収することになったのだ。俺としてはもう行く気はなかったが2人が行くと言い出したので我慢してついて行くこととなった。


 道中は特に強い魔物が出てくることもなく、基本的に姿を隠している俺達にとっては余裕だった。


 ほとんどロンとニアに任せておけば良いため、俺は倒した敵から黙々と匠の短剣で魔石を回収するのが仕事だ。


 そういえば最近証券口座で購入できるものが増えていることに気づいた。定期的に買っているルドルフの鍛冶屋とブリジットのスキル屋以外にも新たにゴールド商会とアースの飲食店が加わった。


「にいちゃ着いたよ!」

 いつのまにか洞窟の前に着いていた。俺達は装備を整えて中に入ることにした。


「そういえばあそこにまだ金属は眠っているのか?」


「んー、多分ないと思うよ」

 ロンが言うには前回の時に収集できる範囲は俺に場所を教えて掘ったらしい。


「じゃあ、どうやって向かってるんだ?」


「勘!」

 ロンとニアに引っ張られている俺に向かって声を揃えて言ってきた。


 2人は感覚的に場所を覚えているのか前回穴を掘ったところまでは迷わずに一直線に向かっていた。


 やはり今回も頼りになるのはロンとニアだった。通る道全てがなんとなく見覚えがあるところだったのだ。

 

 気づけばこの間採取をしたところまで着いていた。


「オラ達も探してくるね!」

 ロンとニアも別行動で以前採取したアダマンタインを探しに行った。


「確かこの辺のはずだけどな……」

 前回は一度にまとめて中心に置いていたはずだ。


 アダマンタインの詳しい性質はわからないが、あれだけ重い物であれば誰かが勝手に動かさない限りは無くなることはないだろう。


「誰かが動かさ──」


「みんな入り口に集まれ!」

 俺は肝心なことを忘れていた。大きく声を出した途端に地響きが鳴っていた。


 やはり自分達ではない何かがアダマンタインを求めて近づいていた。


「にいちゃ、どうしたの?」

「お兄ちゃん大丈夫?」

 俺も急いで入り口側に向かうと2人とも怪我もなく無事だった。


 俺は音がした方に視線を向けるとそこには大きな塊が立っていた。


 そう人型で仁王立ちをしている何かがいるのだ。


 俺はすぐにその何かに向けて鑑定を使った。


《ステータス》

[名前] 金剛の守護者ゴーレム

[種族] 魔物

[能力値] 力S/S 魔力E/E 速度D/D

[スキル] 金剛

[状態] 怒り


《金剛》

レア度 スーパースペシャル級

説明 アダマンタインを取り込み身体の構造を書き換え硬く構築する。常にスキルが発動され、力が上昇し速度は低下してしまう。


 俺は雷属性のスキル玉を使うと辺りを照らした。灯りだけではゴーレムの大きさがわからないのだ。


「まぢかよ……」

 俺は過去にアドル達がゴーレムと戦っているところを見たことはあるがそいつの数倍……いや、数十倍の迫力があった。


「絶対に攻撃は当たるなよ!」

 俺が叫んだ瞬間目の前にゴーレムの拳が落ちてきた。


「うぉ!?」

 俺は地面を叩いた衝撃波で飛ばされていた。はっきりは見えていないがなんとなくの気配を感じ取っているのだろう。


 ゴーレムは俺を潰すように攻撃を仕掛けるが速度が遅いからか俺の動きには追いついて来れなかった。


 俺はゴーレムの近くに来るとそのまま雷属性と短剣術のスキル玉を発動させ、ゴーレムがいるところまで一気に踏み込んだ。


「スキル【雷属性】を吸収しました」

「スキル【短剣術】を吸収しました」



「いけー!」

 今の俺が出せる1番の最大火力だ。しかし、俺には穴を掘った時の感触がなかった。


──カラン


 俺の手元から短剣が転がり落ちた。俺は急いで取りに行こうとするが気付くのが遅かった。


 ゴーレムの腕が俺の目の前に落ちてきたのだ。


「お兄ちゃん!」

「にいちゃ!」

 ロンとニアの声とともに俺はゴーレムの攻撃で吹き飛ばされた。


「お前ら早く逃げ──」

 俺は体の痛みとともに意識を失った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る