第39話 過去の記憶
俺はどこか心地良い揺れの中に温かみを感じていた。
「ウォーレンはお母さんみたいに立派な冒険者になるかな?」
「いやいや、俺みたいにかっこいい男になるだろう」
どこか懐かしい声に俺はつい笑ってしまった。
「あはは、ウォーレンだって俺のことをかっこいいって言ってるぞ」
「誰もあなたのことかっこ悪いって言ってないでしょ」
どこか言い合いをしていても楽しそうな2人を俺は覚えていた。小さい時のわずかに薄らとある母親と父親の記憶だ。
「そんなことを言って2人目でも作ろ──」
「馬鹿なことを言わないでよ! ただでさえあなたは止まらないんだから!」
「そりゃー、お前の顔を見ていたら止まるはずがないだろ」
おっ、これは今からでも押っ始める気か。俺もまだ体験していな……いやこのままじゃ両親の夜の営みを見てしまうことになる。
それよりも今はまだ真昼だぞ!
「それはずるいよ……」
「ほらほらこっちにおいで──」
母親は俺を揺かごの上に乗せた。おいおい、出来れば俺の遠いところでやってくれ。
「可愛いよ。 愛しの──」
「にいちゃ!」
「お兄ちゃん起きて!」
どこからか俺を呼ぶ声が聞こえていた。今は両親のあんなことやこんなことの声を聞かないように必死なのだ。
「にいちゃ、早く起きてよ。 オラ達を置いていかないでよ」
えっ、俺って誰かを置いてきたっけ。そういえば俺に弟は居たのか……?
「お兄ちゃん、死んじゃだめー!」
あれ、女の子の声もする。
ああ、この声は……。
──ロンとニアだ!
「えっ、俺は死ぬのか!?」
俺は気づいたら壁に打ち付けられて気絶していた。
飛ばされた衝撃で少し前の記憶は飛んでいるが、拳があたる寸前のところで自分から後ろに飛んで、衝撃を吸収したのは覚えている。
「お兄ちゃんのバカ!」
ニアは涙で顔がぐちゃぐちゃな状態で俺に抱きついてきた。その手には杖といくつかのスキル玉を持っていた。
きっと俺に回復魔法をかけていたのだろう。中身が無くなって透明になったスキル玉がコロコロと転がり砕け散っていた。
「ロンはどこだ!?」
俺に抱きついてきたのはニアだけだった。すぐにロンを探すとニアは中心に向かって指を差していた。
たしかそこにはゴーレムが……。
ロンは外套のフードを外してゴーレムの攻撃を必死に避けていた。速さはロンの方が早いが少しずつ疲れが出始めていた。
俺は自分の外套のフードを外し、ロンと切り替わるとともにそっとロンに近づいてフードを被せた。
「ロン良くやった」
「にいちゃ! オラ2人を守ったぞ!」
ああ、ロンはここまで強くなったんか。どこかロンの姿は大きく成長しているように感じた。
俺はゴーレムに近づき必死に攻撃を避けた。ちょうど近くに短剣が落ちていたため、そこまで避けながら移動したのだ。
「あれ……ないぞ!」
俺はスキル玉を取り出そうとしたが、ポケットには短剣術も雷属性のスキル玉も入っていなかった。
俺はさっきの攻撃が当たるタイミングでどこに落としたのだろう。
「お兄ちゃんここにあったよ!」
それに気づいたニアはどこかにあったスキル玉を投げてきた。俺はそれを受け取るが手にあったのは短剣術のスキル玉のみだった。
ゴーレムに攻撃を与えるには雷属性のスキル玉が必要だった。
穴を掘った時のようにはいかないがさっきの攻撃でわずかに傷ができていた。
「雷属性のスキル玉を探してくれ!」
俺の言葉にロンとニアは必死にスキル玉を探していた。
とりあえずその間の時間をこれでどうにかするしかないか。
「スキル【氷属性】を吸収しました」
ここに来る前にメジストの錬金術店でもらったスキル玉だ。この青く輝くスキル玉はサハギンから採取した魔石で作ることができたやつだった。
「一か八かでやってみるか!」
俺はもう一度さっき突き刺した傷がある部分に向かって短剣を突き出した。
どこか剣先から出る白いモヤは短剣が傷に当たるとそこからゴーレムの脚を凍らせていた。
「これってどういうことだ?」
俺は反対側の足にも当てるがさっきのように凍ることはなかった。
「にいちゃ見つけたよ!」
そんな中ロンが雷属性のスキル玉をみつけたようだ。
俺はロンから雷属性のスキル玉を受け取ると氷属性から切り替えてもう一度凍った脚に短剣を突き刺した。
──パキッ!
突き刺した脚から音が聞こえるとそのままゴーレムは体が支えきれずに倒れていった。
「うぉ、ちょ……こっちに来るなよ!」
ゴーレムはそのまま俺を目掛けて倒れてきたのだ。
俺は必死に逃げるとその先にはロンとニアもいた!
「お前達も早くにげろー!」
俺は声を出すがロンとニアはその場で動けないでいた。いや、彼らからはゴーレムとの距離が遠くて倒れてくるのが見えていなかった。
俺は脚に力を入れるとそのままロンとニアを抱きかかえるように飛び込んだ。
辺りにはゴーレムが倒れた衝撃波が広がっていた。
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