第16話 ストーカー気質のおっさん
俺は目を覚ますとまずは日課のベットの回りを見渡した。どうやら今日も配当はないようだ。
お金を入れた次の日に配当を貰えると思ったが、前回の靴をもらった時からタイミングが曖昧なのだ。
「おはようございます」
身支度を整えると俺は階段を降りて食堂に向かった。昨日は何も食べていないため俺のお腹はずっと鳴っていた。
「おはようございます。 今日はオススメのオークのシチューです」
席に着くと目の前に出されたのはオークを使ったシチューとパンだった。オークって魔物の中では美味しいと言われるほどで値段もそこそこするはずだ。そんなお肉が安めの宿屋で出してもいい物なのか……。
「ふふふ、このオークはお得意様が持ってきてくれるんです」
俺の顔が物語っていたのか考えていたことが顔に出ていたようだ。
「あっ、その人が起きてきましたよ」
俺は振り向くとそこには昨日助けてもらったおっさんがだらしない格好で歩いていた。
俺は驚きのあまりシチューを吹き出してしまったが、急いで拭くとおっさんのところに向かった。
「朝からなんだ?」
おっさんは眠たそうな顔でこちらを見ていた。
「昨日はありがとうございました!」
俺はお礼を伝えるがおっさんはどこかぼーっとしていた。
「昨日か……昨日は何かやったか?」
どうやら単純に忘れていたらしい。それだけ自然と人を助けられる目の前のおっさんにどこか尊敬の気持ちが芽生えた。
「冒険者ギルドで助け──」
「あー、男に襲われてた玉の子か!」
尊敬の気持ちは一瞬でどこかへ消えて行った。今の言葉だけ聞けば誤解……いや、すでに宿屋にいた女性はこちらをジロジロと見ていた。
「とりあえずお礼を伝えたかっただけなので失礼します」
俺は恥ずかしくなったため急いで熱々のシチューを食べた。
さっきから宿屋の女性がずっとジロジロとこちらを見てくるのだ。時折おっさんと交互に見る彼女の目は鋭かった。
♢
俺は冒険者ギルドに行くといつも通りに薬草の依頼を受けることにした。
「ポーターは依頼を受けられないのは知らないのかい?」
受け付けをしていたのは昨日の男だった。ただ問題になったのか小馬鹿にはしているが仕事はちゃんとしているようだ。
俺は冒険者カードを出すと依頼の処理を進めていた。
「ポーターだからってちゃんとしないとギルドの信用問題になるので注意してください」
男はそれだけ言って俺を追い払うように手をひらひらと仰いでいた。
俺は少しイライラしながらも街の外に出て装備を整えた。初めての森周囲で探索をする予定だが、基本的に匠の外套と匠の靴があれば魔物からは逃げられるだろう。
《匠の靴》
レア度 ★★★★★
説明 あるドワーフが感謝の気持ちとして作った靴。どれだけ歩きにくい場所でも安定して安全に動けるように願われた靴。持ち主を幸運に導いたりすると言われており、移動速度、瞬発的な移動が速くなる。
持ち主 ウォーレン
リーチェに鑑定して貰えばよかったが、一度だけ事前にスキル玉を使ってみたかったため【鑑定】のスキル玉を使った結果だ。
スキル玉は手に持って意識するだけで自然とそのスキルが使えるという摩訶不思議なものだった。
一瞬にして俺の視界は変化し、ある一つのものだけを意識すると鑑定ができるのだ。
俺はまず森に入らずに薬草を探すことにした。
結果は今までと同じだった。基本的に生えているところは似たような場所に多くなぜか冒険者達に採取されていなかった。
その後も森の中に入っても採取されていないことが多く、都市ガイアスの特徴なのか魔物の討伐ばかりしている冒険者が多かった。
そんな中俺は隙間を通っては薬草を刈り取ってを繰り返していた。魔物も冒険者も俺に全然気づく様子はないのだ。
「やっぱり変わってるな!」
俺は魔物の前で薬草を刈っていると突然声をかけられた。声からしてあのおっさんだが俺と同様で存在感が薄かった。
「なんとなくどこにいるのかはわかりますがどこですか?」
「ああ、君はスキルじゃないのか」
「ブヒィ!?」
突然後ろから魔物の声がしたと思ったら剣でオークを刺しているおっさんが立っていた。
「これで今日もオークのシチューが食べれるな」
おっさんは何かのスキル玉を使うとオークは姿を消した。
「ああ、今使ったのはアイテムボックスのスキル玉だ」
俺に見せてくれたのは見た目は俺が持っているのとほぼ同じで色が違うスキル玉だった。
スキル玉を持っているぐらいだから目の前にいるおっさんは相当強い冒険者なんだろう。
「そういえば装備も変わっているよな」
「なぁ、ちょっと俺にも使わせてよ」
俺はあまり関わらないように森の中を走ると後ろから追いかけてきたのだ。
「おいおい、めちゃくちゃ速いじゃねーかよ」
しかも、俺が行く方へ先回りしてくるためどこに逃げてもおっさんが目の前から突然出てくるのだ。
「もう追いかけっこはおしまいか?」
結局は逃げても追いかけてくるため、俺は逃げることをやめた。
「それでその装備ってどうなってるんだ?」
俺は迷った挙句1番渡しやすい匠の外套を渡した。
「おい、なんだこの装備は!」
おっさんは装備しようと外套を羽織るが弾き返されていた。何度も試すが結果は全て同じで結局おっさんは匠の外套を装備することはできなかった。
俺はこの時初めて匠シリーズが自分だけのオリジナル装備になっていることを知るのだった。
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