第2話 命拾い

 俺は蹴られた衝撃で痛む腹と肋骨を抑えながら街に戻った。


「おい、ウォーレン大丈夫か?」

 そんな俺を心配してくれるのは街の入り口を管理をしている門番の男だ。


「はい」

 心配かけてはいけないと思い笑顔を作り微笑んだ。


「そういえば、アドルがまた新しい女を連れていたぞ?」

 きっと新しく入ったポーターのことを言っているのだろう。


 元々パーティーの女以外にも手を出していたアドルは街の中でも女好きと知られているぐらいだ。


 それでも女性が寄ってくるのは彼の容姿の派手さと冒険者としての強さ、そして何人も養うことができる経済力なのだ。


 小さい時から近くで見ていた俺ですら男として羨ましいと思えるようなやつだった。


「ははは、俺の代わりらしいですよ」

 必死に答えたがあまりの痛みに意識が少しずつ朦朧としていた。


「ウォーレン顔色が……おい、ウォーレン!」

 次第に俺は周りの音が聞こえなくなっていた。





 気づいた時には俺は冒険者ギルドのベットの上で寝ていた。


 お腹には包帯が巻かれており治療して形跡があった。


「いたたた……」

 体を起こすと痛みはあるもののさっきよりは落ち着いていた。どうやら命に別状はないようだ。


「あっ、ウォーくん起きたんだね」

 扉を開けて入ってきたのは冒険者ギルドの受付をしているリーチェだ。


 彼女はポーターにも分け隔てなく接してくれる優しい女性だ。


「俺って自分で戻ってきたんですか?」


「ううん、門番のライオさんが急いで抱えて戻ってきたわよ。 ポーターがこんなに怪我をしてどうしたの? アドル達は?」

 どうやら俺は門番の男に助けられてここまで運んでもらったようだ。


 俺はパーティーから追放され怪我をしたことリーチェに話すことにした。


「そうなのね……。 ウォーくんごめんなさい!」

 リーチェは突然謝ってきた。むしろ話を聞いてもらったのは俺の方だ。


 いや、全ては新しく勇者パーティーとなったアドルが悪いのだ。そして弱くて何もできない俺自身がダメなのだ。


「なんでリーチェさんが謝るんですか?」


「いや、アドル達のこともですが今回治療するのに回復魔法を使ってもらってるのでお金が発生するんです」

 同じ冒険者でも街の教会や診療所に行くよりは安いが回復魔法をかけてもらうにもお金が必要になる。


 俺が全てのアイテムとお金をアドルに奪われたため、一文なしの状態のことを心配しているのだろう。


 そして勇者パーティーになったのも冒険者ギルドが関わっているのだ。


 冒険者である一定の功績を得た人物のみだけが与えられる称号が""と呼ばれている。

 その称号を持った人が所属するパーティーが一般的に勇者パーティーと呼ばれるのだ。


 それもありリーチェは謝っているのだろう。


「すみませんが少しの間ギルドで払っておいてもらってもいいですか?」


「それは大丈夫ですが、勝手なことをして申し訳ありません」


「いえいえ、大きな怪我にならなっただけよかったです。 しかも、念のために最低限の治療しかされてないので判断としては流石としかいえないですよ」

 しっかりとした治療には高いお金がかかるため、自己判断ができる必要最低限のレベルで治療をしてくれたのだろう。それには感謝だ。


 一文無しの俺が高位の回復魔法をかけられていたら今頃奴隷になっていただろう。


「そう言って頂けてよかったです。 そういえば、ウォーくん落とし物をしてましたよ」

 リーチェは部屋から出るとすぐに戻ってきて俺に短剣を渡してきた。


 全く見たこともない短剣だが、リーチェが何も装備もない俺を心配して護身用に渡してくれたのだろう。


「ありがとうございます」

 その優しさに涙が止まらなかった。この恩を返せるように俺は働いて治療費もどうにかしようと思う。


「じゃあ、私は仕事に戻りますね」

 ひとこと言ってリーチェは仕事に戻って行った。


 1人部屋に残された俺は今後のことを考えることにした。今まで冒険者のポーターとして働いてきた俺は他の仕事を行う気にはなれない。


 そもそも他の職業でも自分に合ったスキルを使って仕事をしているのだ。


 俺のスキルでは他の職業でも一から努力をしないといけないため、適合スキル持ちよりは雇ってもらえることが少ないだろう。


 俺が出来るのは元々ポーターとして身につけた知識と技術だけだった。

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