第3話 初めての依頼

 俺はすぐに起き上がるとポーターとして雇ってくれる人を探した。


「誰かポーターは必要ありませんか?」

 声をかけてくれたのは俺よりも年下の冒険者パーティーだった。


「ポーターとして何ができますか?」


「基本的な荷物運びと知識ぐらいですね」


「ポータースキルはなんですか?」


「スキルは【証券口座】です」

 スキル名を伝えると年下の冒険者は笑っている。


「あはは、先輩ってポーターは向いてないんじゃないですか? しかも証券口座って絶対外れスキルじゃないですか」

 この言葉を言われるのはもう慣れた。既に声をかけて来たのはこの人達以外にも数パーティーいたのだ。


「ははは、本当にお前って性格悪いよな。 使えないポーターってわかってて声をかけてるんだもんな」

 どうやら俺が今まで断られているのをこの人達は見ていたのだろう。


「だってこの人勇者パーティーから捨てられた人だろう? あのアドルさんもよく今までパーティーに入れていたよな」


「それは勇者になるためだろう。 人の手助けをする人が勇者だしな!」


「じゃあ、使えないポーターさんは新しい仕事でも初めてみたら良いんじゃないですか?」

 そう言って年下の冒険者達は去って行った。


 この冒険者ギルド内で俺を助けてくれる人は誰一人としていないのだろう。


「ウォーくん大丈夫?」

 いや、唯一の味方は受付嬢のリーチェだけだろう。


「はい」

 言葉では強がっているが先が見えない人生に俺はどうすることもできなかった。


「この際冒険者登録をしてみたらどうですか? ポーターの資格もあるから無料でできますよ?」

 冒険者ギルドの依頼を受けるにはポーターとしての冒険者登録では依頼を受けることができなかった。


 ただ、冒険者になっても攻撃スキル持ちではない俺は冒険者としてランクを上げることもできないし活躍はできない。


 だから俺の中にあった"勇者になる"という夢を叶えることができなかったのだ。


 そんな俺にリーチェは遠回しに冒険者として活動するのはどうかと提案しているのだ。


「冒険者になったとしても戦え──」


「別に戦わなくても良いんですよ!」


「えっ?」


「だって依頼には討伐以外にも採取があるじゃないですか!」

 俺はアドルが討伐依頼ばかり受けていたから忘れていた。駆け出しの冒険者は採取から始めてどうにか生活しながら経験を得て、一人前の冒険者になる人がいるぐらいだ。


「ただ、ウォーくんは魔物が倒せないから採取するのも大変だけどね」

 採取する物は基本的に魔物が存在するところに生えていることが多く、そのため冒険者の採取依頼として出されているのだ。


「それしか生き残る道はないですもんね」

 俺は依頼掲示板にあった薬草や毒消し草と呼ばれる採取の依頼を受けることにした。


 基本的に討伐依頼と違って失敗しても問題はなく、常時出ている依頼のため問題ないのだ。


「薬草の種類はそこにある本に書いてあるから見ていくといいですよ」

 リーチェが指をさしたところには本が数冊だけ置かれていた。


 駆け出しの冒険者のために用意されている物だろうが読んでいる人は今まで誰も見たことはない。


 アドルがいたパーティーでは採取依頼を今までしたことがなかったため俺の知識も使えないのだ。


 だが、今の俺はそんなことを言っていられない。周りから馬鹿にされた視線と笑い声が聞こえてきたが俺は必死にその本を読んだ。それが俺にできる唯一の生きる手段だった。


 俺は読み終えると街の出入り口に向かった。そこには俺を運んでくれた門番のライオが立っていた。


「ウォーレン大丈夫か?」


「先程はありがとうございました」

 俺はライオに頭を下げると恥ずかしそうにライオは頬をかいていた。


 別におじさんの照れる顔には興味はないが俺に優しくしてくれる良い人だ。


「こんな時間にどこ行くんだ?」


「今日から冒険者になるので薬草を採取してきます」

 俺は冒険者カードを見せるとウォーレンはまじまじと見ていた。


「お前大丈夫か? 装備も短剣しかないじゃないか」


「今は一文無しなので薬草採取だけです」

 俺の言葉にライオはため息を吐いていた。


「夜は魔物が出やすいから早く帰ってくるんだぞ」

 ライオは単純に心配していたらしい。確かにさっきボロボロで帰ってきてと思ったやつが防具もつけずに街の外に出ようとしているのだ。


「わかりました」

 俺はライオに返事をすると魔物が出てくる森の前まで向かうことにした。


 俺が採取しようとしているのは薬草だ。基本的に森の中に生えているが、魔素があって陽が当たりやすいところであれば生えているらしい。


 俺は冒険者ギルドで見た本を頼りに木の影にならないところを探すと本で見た同じ草が生えていた。


「結構数があるな」

 駆け出しの冒険者達は森の中でしか探さないのかそこには沢山の薬草が生えていた。


 俺はその薬草をリーチェにもらった短剣で採取するとなぜか切った瞬間に光が飛び散ったのだ。


「薬草って切ると光る性質があるんだな」

 本には書いていなかったはずだが、きっとみんなが知らないこともあるのだろうと俺は思った。


 リーチェに渡された袋にたくさんの薬草を詰めるとすぐに俺は街に帰ることにした。辺りが少しずつ暗くなってきたのだ。


 魔物は夜行性のやつも存在するため、急いで暗くなる前には帰った方がいい。これが冒険者の中でも常識だった。


 俺は帰りを待っていたライオに手を降り、リーチェが待つ冒険者ギルドに帰ってきた。


「ウォーくんどうだった?」


「薬草がたくさん採取できました」

 俺は採取した薬草をカウンターの上に乗せるとあまりの量に驚いていた。


「森に入ったの?」


「いえ、運良くたくさん生えているところを見つけました」

 リーチェが驚いたのは森の中に入らないと採取できない量の薬草を俺がカウンターに乗せたからだ。


「じゃあ鑑定してきますね」

 鑑定スキルを持っているリーチェは薬草を奥の台に乗せて鑑定を始めた。


「えっ……これも? えっ、どういうこと」

 リーチェからは驚きの声が聞こえていた。何か不穏な空気を感じた俺はリーチェが鑑定を終えるのを待っていた。

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