第11話 河原
図書館の帰り道。河原の道の傍を二人自転車で並走する。昼前の陽光が、子供たちの肌を射す。翔太は、朝はしゃぎすぎたことにより疲れたとみえて、エアガンをバッグにしまったまま、しょんぼりと自転車を漕いでる。
翔太が人を襲う心配がなくなった大樹は、自転車を漕ぎながら、河原に沿って這う砂利を見ていた。石を積む子供たちの様子がそこに重なる。
「翔太君、ちょっといいかな」
「どうしたん、大ちゃん」
「少し河川敷に降りてみない?」
きぃ、と自転車を停めると、二人は土手の草道を下り、河川敷へと降りた。
大樹は片手ほどの大きさの平たい石を拾い始め、両手と胸でそれらを抱え込んでいった。胸いっぱいまで集めると、大樹は屈みこんだ。集めた石を大樹の横にどっさりと広げると、それらを縦に重ねはじめる。
一つ積んでは父のため、二つ積んでは母のため。三つ積んではふるさとに残る兄弟わがため。心の中で大樹は積んだ石を数える。
10ほど石を積んだころ。大樹に射す陽の日を何かが遮った。河原に生えている柳の木ほどの大きさの影が大樹の前に立っている。
肌は青。額には二本の角。ライオンの鬣のような、ざんばらな髭と髪。腕と足には、針金のような金色の毛。右手には五角柱の鉄棒。
目を見開き、四白眼のそれは、黒々とした光彩で大樹をさすように睨みつける。大樹はそれと目を見合わせてしまい、どうにも動けなくなった。
それは右手を上段に振り上げた。そして、大樹の目の前に
「大ちゃん、この石いい形じゃん。もらい」
はっと大樹が意識を目の前に戻すと、翔太がそこに立っていた。翔太は、大樹が積んだ石塔の最上段にある石を拾い上げ、川に向かって横振りで放り投げた。石は勢いよく横回転し、10回ほど水面を跳ねると、ぽちゃりとあっけなく川の中へ沈んだ。
大ちゃん集中しすぎ。跳ねそうな石ばっかじゃん。水切りしようぜ。翔太がははは、と笑う。ひたすら大樹が石を積むことに集中し、自身に構わないことに翔太は業を煮やしたようだ。大樹は、悪い空想の中から拾い上げてくれた翔太に、今日、はじめて感謝した。
大樹が集めた石たちを、二人放り投げていく。ぱちゃり、と小気味よく水面をかえるのように跳ねていくものもあれば、どぽん、と身を投げるように不器用に沈むものもある。大樹が投げるものは大抵後者だ。
大樹が集めた石をあらかた二人で投げ終わると、翔太はエアガンをバッグから取り出した。
「そういえば今日はまだ誰も撃っていないよな。帰りこそは」
大樹はしょんぼりと肩を落とした。
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