第9話 懺悔

 白いシャツを真っ赤にした男が力無く、肩を左右に揺らしている。

どうしてここまで来れたのだろうか。


 「神様、おれは」


  息が荒れ、言葉を吐くたびに肩を揺らしている。充血した目で鬼の面を見つめてきた。


 「人をころしてしまったかもしれません」


  いきなりの懺悔。唐突な告白。


 「さっき横断歩道で子供を轢いてしまった。どうか、神様。」


  その先は聞きたくない。


 「俺はどうなってもいいですから。あの子を救ってください」


 切実な願い。どこからともなく不幸が舞い込み、この男と子供の人生は終わりかけている。


「俺はしんでもいいですから。どうか」


 男は力なく地面へ前に倒れこむと、両腕を地面につき、頭を下げた。

 そして、両手をぐっと握りしめ、震えだした。

 

 「あの子に俺の命を与えてください」


 いたぞ。神社の脇から大きな声が上がる。

 黒い帽子を被った男二人が、血だらけの男の元へ駆けてきた。任意同行を願う。血だらけ男は、黒い帽子の男たちに両肩を抱えられていった。


 また、叶うかもわからない願いがここに吐き捨てられていった。自分はどうなってもいい。だから他の人間を助けて欲しい。そう願えば叶うのだろうか。

 からすが目をにやつかせながら、屋根に降りて来た。


「ものすごい光景だよな。さっき、そこの通りで人間たちが大騒ぎしていたが、あの男が犯人だろう。頭から血を流していた子供がいたぜ。血だまりになっていて、あの様子じゃもう助からないかもな。」


 お前はまた、願いを叶えないのか?そういうとカラスはあーっと鳴き飛び去って行った。

 

 面には、その男が憐れで仕方がなかった。きっと、もうあの男がどうなったのかを知ることは無い。ただただ、このまま、あの男は不幸にまみれて生きていくのだろう。

 

 男が倒れたあたりに、血の雫が残っている。鬼の面はそれをひたすら見つめていた。

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