第7話 カラス
あーっとカラスが鳴いた。
またあいつが屋根にいるのだろう。
ゆっくりと石段をかっ、かっと昇る音が聞こえる。どうにも足取りは重そうだ。
石段をのぼりあげると、石の道をざっ、ざっと低く足を引きずるように歩く音が近づいて来た。社殿正面で、鐘がガラガラと鳴った。パンパン、と二回手を叩き、そこでその存在は静止した。沈黙が流れる。そうして、その存在を忘れたころ、石段を下る音が遠のいていった。
「あいつは何を願ったんだろうな」
カラスが言った。
「長いこといたな。さも大層な願いだろう。お前はそれを叶えるのか」
カラスは恨めしそうに続ける。
「この前の子供、呪わないでほしいと言っていたよな。お前はそいつを呪うのか」
カラスはせわしく首をかしげる。
「お前は願いを叶えも、呪いもしないんだろう?」
羽を羽ばたかせて、あーっと鳴き、カラスは飛び去った。ひらりとカラスの羽が1枚舞った。木の葉が風で揺れる音だけがあたりを包む。やがて、風がやみ、時間は止まる。
願いなど、知る由もない。いつも何者かがここを訪れ、何かを願い、去っていく。声にでも出さない限り、その者の願いは分からない。いわんや、その願いを叶えろというのか。いつもここに存在するだけ。取り残され、時間とともに朽ちていく。それに人は何を期待するのだろうか。
かと思えは、自分をみたものは、人を陥れる存在として忌み嫌うのだ。これは鬼の宿命なのか。全く知らないものを呪うことが、果たしてできるのだろうか。恨むことはできるだろうか。自身が呪うとしたら、いつまでもここに存在しなければならない、その運命だろう。
ゆうやけこやけのあかとんぼ。幾度となく聞いた音が空を満たしていく。意識は夕闇に溶け込んでいった。
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