4 滅亡へのカウントダウン《国王視点》

 クレアが謁見の間を出て行った後、ルドルク王国の王、アイラックは一仕事終えたとばかりに軽く息を付いた。


 ようやく無能な聖女を切り捨てる事ができた。

 改めて考えても本当に無能な奴だったと、そう思う。


 聖女は国民の中から適性のある者が選出される。


 それがこの国のシステムだ。


 そのシステムに従ってこれまで何代も何代も、代わる代わる聖女は選ばれていった。

 選ばれた者は前の聖女の命が尽きる前に、聖魔術を学びマスターして次の聖結界を構築する。

 そのプロセスを、今までの聖女達は皆三日もあれば終わらせていた。


 それがつい先程までこの国の聖女だった無能はどうだっただろうか?


 同じプロセスを熟すのに一週間も掛かった。


 それも今までの聖女達は一日八時間程度を三日で全て終わらせていたにも関わらず、頭の悪く物覚えの悪い無能聖女は睡眠時間を削りほとんど休まずに一週間で無理矢理詰め込んでようやく最低限の事を終わらせた。


 国防の要としてはあまりに時間が掛かり過ぎだ。

 無能以外の言葉が浮かんでこない。 


 それだけではない。


 そうして張られた聖結界はこれまでと比べると拙く脆く、そしてその程度の聖結界を維持しているだけですぐに体を壊す。


 その程度でだ。

 本当に無能でしかない。

 思い出すだけでもイライラする。



 だが対するローラと名乗った新しい聖女は優秀だとアイラックは思う。



 彼女は旅の者で本来聖女に任命される人材ではないのだが、ずっと代わりの有能な聖女を探していたアイラックとしては、これまでの仕来たりなどに大人しく従っている余裕はなかった。


 故に旅の聖女を名乗り面会を希望してきた彼女と顔を会わせるまでに時間はかからず、明らかにクレアよりも強い聖魔術を使ってみせた事から、彼女にこの国を任せると決めるまでも迅速だった。


 とにかく……彼女は今日までこの国を無茶苦茶にしてきた無能聖女と比べ物にならないほど有能なのだ。


「これからよろしく頼むぞ、ローラ」


「はい、国王様」


 ローラはアイラックの言葉に笑顔でそう返し、その笑顔を見てアイラックも自然と笑みを浮かべた。

 そうさせたのは何より安堵だ。


 もう無能に足を引っ張られる事はないという。

 自身の代で良からぬ事が起きたというような汚名を被る事は無くなったと。

 ……本当に、安堵した。



 そんな彼は気付かない。

 無能な彼は何も気付けない。


 これまでこの国を支えてきた聖女達がどれ程異常だったのかを。

 自身が無能扱いして追放したクレアが世界全体を見渡せばどれだけ有能な聖女だったのかを。


 ローラの笑顔の裏にあるものも。


 何も何も気付けない。




 こうしてこの日、聖女とは真逆の存在が……偽りの聖女として君臨したのだった。

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