第7話 [強制死に戻り]

「一旦脳みそのキャパオーバーを抑えるために離れたけど……もう夕暮れかぁ」


 茜色の空を飛ぶ黒いカラスが、太陽が沈むと叫んでいる。


「頭パンクするの早いね」

「ああ、昨日の夜中に謎解いたばかりでちょっと頭痛いんだ」

「う……罪悪感で圧殺される……」


 さて……絞め殺したのならば頭から血は出ない。わざわざ鈍器で殴った後に絞め殺した? いや、


……?」


 橋の白い手すりをガシッと掴みながらポツリと言葉を零す。


「うん、その可能性が高いと思うよ、りゅー兄。犯人は被害者が傷つこうが、特段構わなかった人だろうね」

「わかってたの?」

「うん。なんで頭から血ぃ出てるんだろって思ったてだいたい予想ついた」

「言ってよぉ……」


 脳みそはただの一般人なものだから、些細なことには気付きにくいし、あってもそれが何か理解できないんだ。


「日を跨いだ死に戻りになるかなぁ。面倒なんだよなぁ」

「あの三人の中に犯人がいるとは限らないしね。今日は一回お家帰る?」

「いや、もう少し――」


 ――ドクンッ


 太陽が沈み、昼でも夜でもない黄昏時になった途端、僕の心臓が大きく花上がると同時に停止した。


「…………。戻ってきたな」

「死んじゃったみたいだね」


 目先には先ほどの三人、その少し上には傾いた太陽。死に戻りが発動したようだ。


「にしてもりゅー兄のそれ、おかしな能力だよね。殺されなかったら心臓が止まって事件の発端まで強制送還されるって」

「それはお互い様でしょミィーク。なんで僕の半径5メートル以内にいれば記憶が引き継がれることになってるの」


 この生まれつき持っているちょっと変わった死に戻り能力なのだ。僕が死ぬと発動し、事件に巻き込まれた場面に戻る。

 謎を解いている際に殺されることはよくあること。けれど殺されない時ももちろんあるが、そんな時は心臓が停止して強制的に死に戻りさせられる。

 心臓が停止するタイミングとしては、充分に謎が解ける素材が揃えたている場合。詰みになった場合。謎解きから逃げようとする場合などなどだ。


 能力なんて大層なものじゃない。こんなのは〝呪い〟だ。僕は前世でどんな悪行を行ったんだか。


「でも、その能力のおかげでわかったことがあるね」

「うん、そうだね。謎解きをするのに充分の素材は揃っている、と、いうことは――この中に犯人がいる」


 でもまだわからない。詳しく聞かないと、わからない。


「さて……二回目、張り切っていこっか」

「うん。今回は色々と質問してみよ」


 まずは今日する予定だったことを聞いてみることにした。由佳子さん、幸人さん、薫さんという順番で聞いた。


「私は今日出かける予定でした。でも、皇くんは私のお父様と何か予定があったみたいです」

「俺ぁ仕事の予定だったな。私服オーケーの会社だからこのまま行こうと思ってたぜ。あ、でも帰りに薫ちゃんの家に夜予定だったな」

「わたしは……予定は特になかった。家で何もしないつもりだった……」


 これと言っていい情報が見つからないな。


「皆さんのご関係は? 由佳子さんと金光さんが許嫁だったという話は聞きました」

「この四人はみんな幼馴染みたいな感じです」

「んんむ、なるほど」


 由佳子さんが説明をしてくれた。

 なんというか、やはり上品な人だな。手を前にして合わせるあのポーズ的なやつ、あれが引き立てているのだろう。


「おいおい、俺たちがやったって感じだなぁ! 俺たちはそんなことするわけねぇだろ! 由佳子は親の決定で結婚させられてたけど幸せそうだったし、金光のこと好きだった薫ちゃんも祝ってたぞ!!」

「……へぇ、面白い」

「ど、どうしたんだミィーク」


 幸人さんに圧倒されて狼狽える僕に対し、ミィークはニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。


「りゅー兄、この四人はの関係は結構だよ」

「アレって? 僕は一を聞いて十を知る天才じゃないからわからないよ」

「タール的な?」

「ドロドロって言いたいのか」


 コショコショと聞こえない声量で会話をする。


「まず由佳子は、幸人のことが好きみたいだね」

「えっ!? なんでわかったの?」

「明らかに熱〜い視線を送ってるし、さっくんって呼んでてかなり親しいみたいだしね」

「なるほどなぁ」

「んで幸人は薫のことが好き。夜に行くとか、守るような発言をしてる。残りの薫はさっき幸人が言った通り好きだったらしいし」

「ほぇえ〜」


 ……あれ? 謎解いてるの僕じゃなくてミィークじゃない?

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