第8話 [フィンガーネイル]

 この四人の関係がドロドロだということは理解できた。けれど、この場合誰が金光さんを殺してもおかしくない。

 二歩進んで一歩下がるような感覚だ。


「さてどうしよう。日が沈んだら心臓が止まるからもうあんま時間がないなぁ」

「近くで聞き込み調査してみる?」

「そうだね、どこで落とされたとかわかってる人がいるかもしれない」

「いや、落とされたのは多分一番近くのあの橋だと思うよ? 最近雨はなくて増水してないみたいだし、水草とかいっぱいあるからそこまで流れないと思うし」


 観察眼とかあっていいなぁ……。


「それじゃあそこらへんでするか」


 二回目は、この四人がドロドロの関係だということが確認できて、誰かが殺したことが確定した。

 無理に話を聞き出そうとして時間が来たら面倒なので、二回目はもうこれにて終わりにする。まだ日没まで時間があるが、問題ない。


 ――ドクンッ


「さて三回目。早速聞き込みに行こっかー」

「……あれ、もう日没だった?」

「いんや、自分で心臓止めて死んだ」

「普通しようと思ってできないよ、それ……」


 僕が死んだ回数なんか億は余裕で超えてるし、自決も数え切れないほどしてきた。

 自分の心臓を止めることなんざお茶の子さいさいだ。普通心臓が停止しても助かる可能性はあるが、僕の場合だと停止した瞬間に死に戻る。

 『まともな一般人の人格が保てているのは奇跡中の奇跡』とか、『イかれてる』とか先生は言っるな。


「あ、すみませーん」


 夕焼け下、僕らは聞き込み調査を始めた。


「昨夜の0時頃ってこのあたりにいませんでしたか?」

「いやぁ、いなかったなぁ」

「そうですか、ありがとうございます」


 行き当たりばったりで人に話しかけていると、何人目かでようやく手がかりになるような情報持つ方に出会った。


「0時はねぇ、あ、そうそう。イチャイチャしてるカップルはいたよ。後ろからバッグハグしちゃってさ〜」

「「……!」」


 辺りが暗くて、それはバッグハグに見えているもの。それが実は、後ろから紐のようなもので首を……ということかもしれない。


「そ、その人ってどんな髪型してましたか!?」

「髪は……長かったねぇ。よくは見えなかったけど」


 となると、由佳子さんが薫さんになる……。


「待ってりゅー兄。由佳子は昨日パーティを開いたって言ってたし、もしかしたらウィッグとかがあるかも」

「っ、たしかに……!」


 うんうんと二人で唸っていると、情報を持つ人が「あっ」と口を開く。


「今わかったけど、そのハグ? してる最中に『愛しているから』とかなんとか言ってたような気がする……」

「〝愛しているから〟……?」

「声の低さは川の音でよくわからなかったなぁ。俺が知ってるのはこれくらいだよ。なんか参考になったかな?」

「あ、はい! ありがとうございます!!」


 〝愛しているから〟。

 この四角関係の中で金光さんを愛していたのは薫さんだ。薫さんが由佳子さんに彼を取られ、自分と結ばれないのならば殺してやろうという考えになったのか。

 それとも薫さんを愛している幸人さんが、邪魔な金光さんを殺したのか。

 好きな人ではない金光さんと結ばれてたくなくて、愛している幸人さんと結ばれたいがために殺したのか。


「結局また戻っちゃうね……」

「ああ……」


 さて、どうするかな。唯一の目撃証言は三人に当てはまってしまう。犯行は誰でも可能だった。

 僕とミィークは、親指の爪で眉間を掻いて悩んでいる。


「ん? まてよ……」


 その掻いている指を眉間から話し、じっと凝視する。


「なるほどそうか! 〝n=4〟だ」

「りゅー兄どうしたの? 犯人がわかったとか!?」

「大方予想はついた……けど確証がまだ持てない。ヒントはこの指……もとい爪だ」

「……? あ、わかった!!」


 ニヤリと笑い、ゆっくりと滑り落ちる夕日を眺めながらこう言い放った。


「四回目に行こうか」

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