第6話 [三人の重要参考人]

「ここがその事件現場か」

「警察がいっぱいいるねー」


 事件現場までは電車を乗り継いで向かった。事件現場の河原には多くの警察官がおり、その中に重要参考人らしき人たちがいたのでそこに向かう。


「あ、僕こういう者です」


 いつもの黒い手帳もとい、探偵手帳を規制線の前に立つ警察官の方に見せる。


「はっ、名探偵の坂巻流斗様ですね。……そちらはミィーク・ホームズ様ですか?」

「えぇ、僕の付き添いです」

「探偵様の連れならば問題にはなりませんね。どうぞ」

「ご苦労様です」


 規制線を潜り、人集りに向かった。水から上がり、地に伏せる一人の青年の姿があった。

 金髪碧眼で整った顔。白い汚れがついた高級そうな服で身を包み、腕には高級時計がついている。


「んぁー、どうもこんにちは。探偵の坂巻です。事件があったと聞いて馳せ参じました」

「学生探偵のミィーク・ホームズだよ」


 そこまで急いではきていないが、こう言った。


「あ、あの坂巻流斗さん!? 私でも知っています」

「ほー、そいつぁ心強いのか来たもんだ。胸糞悪いから早く犯人捕まえて欲しいぜ」

「…………」


 おっとり系のお嬢様、少しチャラチャラしている男、目の下にクマができてるダーク系な少女の三人がいた。

 警察の方によると、この三人が重要参考人らしい。


「えー、そうですね……。まず皆さんのお名前を教えてください」


 ボールペンを取り出し、手帳の一頁目を開く。


「わかりました。私は西園寺さいおんじ由佳子ゆかこです」


・西園寺由佳子――豪邸に住んでそうな苗字。おっとり系。お嬢様っぽい。


「あれ……私の記憶では坂巻さんは手帳を使わないことで有名だった気がするのですが……」

「あー、あれはデマですよ。短期的なら記憶力いいですが、どこかで勘違いとか起きるかもなので普通に使います」

「そうなんですねぇ」

「りゅー兄はそー言っておいて最後には、ね〜♪」


 ニヤリと満足げな表情をするミィーク。由佳子さんは何のことかわかっておらず、頭の上にはてなマークを浮かべていた。

 気を取り直し、次はチャラついた男の人に移る。


「俺は室田むろた幸人さちと。……こういう服装だけどちゃんと働いてるからな。勘違いされがちだけど」


・室田幸人――チャラ男に見えたけど実は真面目系。むきむきマッチョマンでもやしっ子の僕は羨ましいと思った。


「じゃあ最後にどうぞ」

「……あたしはささめかおる

「ササメカオル……谷崎潤一郎の細雪の細に薫陶の薫ですか?」

「うん……そう」


・細薫――暗い系……ダウナー系って言うんだっけか。目が腫れてるから泣いたのだろう。


「警察さん、亡くなってしまった方の名前は?」


 近くにいる警察さんに近寄り、耳を立てる。


「この方はすめらぎ金光かねみつという名前です。スメラギは皇帝のコウです」

「かっこいいですね」

「あちらにいる西園寺さんの許嫁らしいです。近々婚姻届を出しに行く予定だったらしいです」

「ふむふむ」


・皇金光――お金持ちそー。身なりはきちっとしている。由佳子さんの許嫁。頭から血出てる。服に傷がついてる。


「んんむ、金目当てだったらこのブランド品の時計取ってただろうし、それ目当てではなかったみたいだね」

「おー、確かにそうだ。さすがミィーク。僕だったら四回目くらいで気づいてた」


 僕と同じような唸り声を上げたあと、そう伝えてくれる。僕だったら見逃してた。多分四回目ぐらいで気づいていたと思う。

 カキカキとボールペンを走らせて追加で書く。


「ん? 爪になんか挟まって……いや、これ血か」

「間に挟まったゴミとるとき、たまに出るよね」


 他愛もない話を繰り広げそうになったので話を切り替える。


「あ、でもなんで他殺ってわかったんだろう?」

「りゅー兄これ見て。首元にダサいミミズのタトゥーが」

「いや、これ絞められた跡でしょ……。じゃあ絞殺した後、この場所に運んだ……いや、でも手がシワシワになってるから流されてここに漂着した感じかな」


 まあでもこれだけじゃ解けるもんも解けないし、事情聴取を始めるとしよう。


「金光さんはいつぐらいまで、誰と一緒にいましたか?」

「昨夜は私、さっくん、皇くんの三人がさっくんの家に集まってパーティみたいなのを開いていました」

「さっくん? 幸人さんのことでよろしいでしょうか?」

「あ、はい。そうです。さっくんとは幼馴染で、ずっと一緒にいるのでそう呼んでます」

「…………」


 ミィークの眉が少し動く。そして、


「男二人と女一人……何も起こらないはずもなく……」

「ミィークお黙り。えー、では昨夜のパーティでは何なかったですか? 睡眠薬とか飲まされたりとか、ぶっ倒れたとか」

「おう、何もなくみんな帰ったぞ。ミッドナイトにお開きしたけど、由佳子は23時くらいに帰ったぜ」


 0時にお開きか。その最中のパーティは何もなかった……。一番怪しくなるのは幸人さんになるけど、まだ決定はしちゃいけないな。


「その後は特に何もなく?」

「普通に帰ったからその後はゲームして寝たな。……待て、俺怪しくなっちまうな!」


 確かに怪しいけれど、白確定にも黒確定にもまだできない。帰り際に殺されている可能性があるし。


「じゃあ0時過ぎ頃、薫さんは何をしていらっしゃいましたか?」

「わたしは……わたしは散歩をしてました」

「……どこを、ですか」

「こ、この近くだけど……」

「おいおい! 薫ちゃんを疑ってんのかよ坂巻さんよォ! 薫ちゃんはそんなことぜってぇしねぇぜ!!」


 僕が目を細めて悩む素ぶりをすると、幸人さんが強く反発してくる。するとミィークは「ふむ」と一言呟き、


「探偵や刑事は、人を疑って解決するお仕事だよ? 一個人の一個人に対する個人的な感情でりゅー兄のお仕事を邪魔しちゃダメだぜ?」


 僕と幸人さんの間に割り込みそう言い放つ。幸人さんは頭が冷やせたようで、「悪かった」と言って大人しくなった。


「えー、気を取り直して。由佳子さんは23時に帰ったと仰りましたが、帰ったのは何時くらいですかね」

「23時半くらいには家にいましたけれど、忘れ物をしたのに気づいてさっくんの家に一回戻りました」

「……何時にですか?」

「0時10分くらいでしょうか……」

「おう、確かにそんぐらいだだったな」


 幸人さんもちゃんと確認している。


 この中の誰かが犯人ならば、パターンは三つある。

 一、幸人さんが二人っきりの際に殺害。二、薫さんが帰っている途中の金光さんを殺害。三、家に忘れ物を取りに行く程で金光さんを殺害。


 いや……お、多すぎない……?


「の……のーみそとうふになりゅ……」

「脳みそは豆腐と同じくらいの柔らかさらしいよ。りゅー兄しっかり〜」


 ゆさゆさと僕を揺らすミィーク。

 謎はまだ解けない。


 n=x。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る