第3話 [嘘つきばかり]

 単純明快僕ピンチ。


 部屋に睦月さんが入ってきてしまい、僕はベッドの下に隠れている状況だけれど、どう打開しようかな……。


「アイツのトイレなげぇし、どんだけトイレ使うんだよクソ。人ん家で長いことしやがってキモいな」


 僕の陰口を言っている場面に遭遇したのは高校生以来だ。散々死に戻ったストレスから痛覚は失われているものの、心のダメージは食らうんだ。

 結構傷ついた。


「あとのことでちょっと連絡を……おっと」


 ベッドのすぐ側でスマホを落とし、僕の目の前に落ちる。手を伸ばして拾おうとしているが、このままだとバレる。


(ギェーーッ!? こうなったら退魔の呪文をッ! のーまくさんまんだーさーたーあんだぎー)


 魔の物を払う呪文(うろ覚え)を心の中で唱える。


「タカハシさん!? ちょっと今すぐ来てください!! 消えてます!!」

「なんだなんだ……」


 部屋の外から涼介さんが呼び、スマホを拾う直前で踵を返して外に出る。はち切れそうな心臓を沈め、一旦深呼吸する。


「あ、危なかった……。けどこれは超チャンス!」


 繭から出るかのようにウゴウゴとベットの下から抜け出し、落としたスマホを拾う。

 スイスイと操作し、メッセージアプリを開く。


「え……?」


 僕は絶句した。友美さんの名前を確認しようとしたのだが、そのアプリでの睦月さんの名前が、


「〝佐伯さえき謙也けんや〟……?」


 待ってくれ。じゃあ睦月さんも偽名を使っていた? なんで?


「っじゃあ友美さんの本名は……。楠木くすのき静香しずか……」


 二人とも何処かで聞いた名前な気がする。なんだったっけかなぁ……。

 少し悩むが、時間を使いすぎていた。周囲が暗くなったと思い見上げると、拳を振り上げる睦月さんもとい、謙也さんの姿が――


「――名探偵の坂巻さん! 助けてください!!」


 ……また戻ってきた。殴られて失神した後、トドメをささてたのかな。

 二人の本名はわかったけれど、どこか聞き覚えがあるんだよなぁ。

 僕の記憶力は短期的ならば得意だけれど、長期的は無理。だから思い出そうなも思い出せれない。


「ちょっと頼むか……」


 スマホでとある人物に三人についてメッセージを送る。


「あの、急いでください!!」

「わっ、ちょ、引っ張らないでください……」


 さて……ここからは時間稼ぎタイムだ。知り合いからの返信が来るまで、僕は殺されるないようにしなければならない。

 カキカキと手帳にボールペンを走らせながら考える。


(んー……。いい立ち回りが全く思いつかないし、普通に質問して稼ごう。四回目だ)


 親指の爪で眉間を掻いて悩む。

 とりあえず恒例の名前を紹介してもらい、質問へ移行する。


「えー、そうですね。じゃあ涼介さん、普段は何されてるんですか?」

「ぇっ、ぼ、ぼく、は、ばあちゃんの介護を毎日毎日してました……」

「おー、偉いですね」

「はは、はい。で、でも最近は、上から目線で命令ばかりで、大変でしたね……」


 チラッと床に倒れる恵美さんを見てそう言う。


「ストレス発散とかはどうやってしてますか?」

「ええ、えっと、SNSで愚痴ってます……」

「はぁー、成る程」


 その後も何気ない質問を繰り返し、ピロンッとメッセージが届く音が耳に届く。三人はその音に反応していた。


「ちょっとすみません。すぐ済ませるんで、その間に警察に連絡してもらっていいですかね? まだしてないんでお願いしても」

「あ、はい! わかりました」


 やはり、警察に連絡されることを嫌悪しているんだろうな。

 キッチンの方に向かい、その送られてきたものを確認する。


「っ!! はいはいはい、そーゆーことね!」


 この人たちの正体が判明し、自然と口角が上がり、三日月のような形になる。


「〝n=5〟だ」


 謎はやっと解けた。けどこのまま謎を解いたとしても、僕一人じゃまた殺される。だから、もう一回死んでやる。


「んー、これでいっか」


 僕はキッチンにある包丁を手に取った。


「ちょ、何やってるんですか坂巻さん!!」


 睦月さんが声を荒げる。他の二人もやってきたが、皆恐怖の色に染まっていた。

 あなた方が思っていることはしない。けど、ちょっとびっくりするかな。


「――五回目で会いましょう」


 そして僕は包丁を逆さに持ち――自分の首筋に包丁を突き刺した。

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