第2話 [推理難航]
「誰か殺されてたんですか?」
「えっ、あ、そうです! 犯人が中にいるかもしれないんです」
睦月さんが虚をつかれたような反応を示す。
……さて、と。一回目でぼくを殺したのはおそらく、睦月さんか涼介さんだろうな。友美さんは細い指で筋肉が付いていなかった気がするからね。
「…………」
「え……手帳を使ってる……」
僕がサラサラと一回目と同じことを書き込み、追加で書き加えていると、睦月さんがほぼ同じような反応をする。
「手帳を使わないなんてことないですからね、僕」
「え、でも……。そうですか」
(これも大体同じ反応、と。二人の可能性大だけど、友美さんをちょっと良く観察してみようか)
睦月さんに案内をしてもらい、再び家に入る。相も変わらず、恵美さんは床に倒れていた。
じっと眺めても怪しまれないような、もう一回自己紹介してもらうことにしたが、今度は友美さんを最初にしてみた。
「お名前を」
「あたし? あたしは……」
ジーっと、穴があきそうなくらい眺める。細い腕に指。僕を絞殺する力はないと見た。
「あたしは……ニージマアヤ」
「えっ」
「な、何よ。なんか文句あんの」
「い、いえなんでも……」
どういうことだ? 一回目では確かに友美と言っていた。聞き間違いなんかじゃない。
なァーもう! 僕の脳内はもうパッパラパーだよ!!
頭が爆発しそうになるが、他の二人にも名前を聞くが、二人は変わらない名前だった。
(んー……。友美さんもとい、アヤさんは偽名を使っている? 何のために? でもどっちか本名? でも何で僕も殺された? 探偵だから? でも手際良すぎない?)
「んんむ……」
親指の爪で眉間を掻きながら唸る。
一回目に僕を殺したのが犯人だよな? 恵美さんを殺した後、謎解きされるのが怖くて一人になった僕をこっそり殺すって……。
「あれ?」
でもそれだとその後どうするの。そんな無鉄砲? 無計画?? おバカ???
「あぁ……あたまこわれりゅ……」
「さ、坂巻さん!?」
とりあえず一つ一つ解いて行こう。僕は名探偵でも一流刑事でもないからすぐ解決できないんだ。
まずは、一回目に僕を殺したのは誰かということ。それをまず確かめよう、うん。……どうせ謎を解かないとずっと死に続ける運命だし、一回自分から殺されよう。
「ちょっと家の中を探索してもいいですかね」
「あ、はい是非」
(是非……?)
睦月さんが言い放った言葉が
気になる気持ちを抑え、僕は少し離れた部屋に一人で立ちすくむ。キィ……と、部屋の扉が少し開く音がするが、僕は振り返らない。
限界まで近づいてきたところで振り返る。
「え――」
「死ねェェ!!」
甲高くどすの利いた声と同時に、僕のお腹に包丁が突き刺さって血が滝のように溢れ出る。押し倒され、滅多刺しにされた。
刺してるのはアヤさんだ。でも一回目は別の人間が僕を殺した? 分岐点はどこだ? わからない。何も、何も――
「――名探偵の坂巻さん! 助けてください!!」
「っ……。はぁ」
また、睦月さんの声が耳に響く。
じゃあ恵美さんを殺したのはアヤさん? でも一回めに僕を殺したのはアヤさんではないと思うし……。
「んんむ」
誰が僕を殺したのかは一旦後回しにしよう。
……僕を殺すには手際が良すぎる気がする。これは罠なのかな? なんか恨み買ってたのかな……。
次の目標が決定した。ニージマアヤor友美さんの本名を調べよう。三回目だ。
「ではお名前を」
家に入り、名前を聞く。
「あたし? あたしは……ニージマトモミ」
(一回目の名前か……)
取り敢えず繰り返し質問をし、家を探索することにしたが、「トイレを貸してください」と言い残し、二階にあるトイレに駆け上がる。
「電気をつけて、あとはこうして……よしっ」
家庭のトイレは大体ボタン式の鍵だ。これは、一度ドアを開けた状態で鍵をし、ドアを閉めるとそのまま鍵が閉まるのだ。
「これで多少の時間稼ぎにはなるかな」
急いで階段のすぐそばの部屋に入り込み、ドアを閉める。
部屋はそれなりに散らかっており、香水の匂いが僕の鼻を刺す。この匂いは苦手だ。
「名前があるものなんかないか〜」
僕の脳内では某スパイ映画のBGMを大音量で流しながら部屋を漁っている。が、
「全ッ然無いッ!!」
物に名前を書くとか、自分は大学の教科書以来してないし、普通は書かないもんなのかなぁ。
うーんと唸っていると、ガチャッと、扉が開く音が聞こえる。
(や、やばい!)
慌ててベッドの下に潜り込む。
「あー、ほんとなんなんだよアイツ……」
睦月さんが部屋に入ってきてじい、絶体絶命だ。
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