2-! 鬼灯よ 茜轟き 初まり初まり

 もう確信した。


  確信しちまった。


   間違い無く確信出来た。


    ……だってそうだろう?、


 ほんの数時間前に経験してんだぜ?


 同じのをさ、


 動かない訳にもいかない。"ブワッ" と音を立ててにじみ出た冷や汗と震えに、全身の感覚がさらわれ、溺死していくのを感じながらも。


 避ける事の敵わない、へばり付いた恐怖だと、分かりきっていたとしても。


 ……今、——──ッ振り向く!!


  ~ッッ!!、!ッ、ッ!!!──、……


   ぁ"、ヤバ、何も出来ねぇ……


 チカチカと目 が、

         ピリピリと肌 が、

  ズクズクと鼻 が、

          キンキンと耳 が、

   バチバチと舌 が、

           ドクドクと心 が、


 全身のありとあらゆる生存本能が、音速を超えた危険信号を俺という理性ほんたいに伝えてくる。『早く逃げろ!!』と号哭ごうこくする。


 ……分かってる、分かってんだよそんな事!! ただピクリとも身体が動かねぇんだよ!! もうどうしようも無ぇだろうが!!


 時計の針は止まらない。俺を残して、いやひきずってでも進んでゆく。


 目の前にいる "ソイツ" の、ギロチンのように鋭い爪が付いた、巨木みたいに太い、マダラの模様が入った凶器ひだりうでが動き出したんだ。

 それでも身体は相変わらず、呼吸の一つすら許してはくれなくて。ゆっくりと、ただゆっくりと、何の抵抗も出来ぬまま凶器におおい被さられ、その影に包まれていったんだ。


 口内に立ち込めていた砂の味が、崖下全域を蹂躙じゅうりんしていた火の匂いが消えた。

 森の奥から他人事のように歌っていた鳥々の声が、視界をあまねく彩っていた夕前の色が消えた。

 無味無臭無音無色の孤独に、"俺" という存在は放り捨てられ、そして隔離かくりされた。

 切り離されていく。この命の世界から。そう実感していた。


 そして、そして――そして……


    スべテ画、


        ゆ がンデ、


          tOマって……


     


             ──弾けて!



   『白●ノ世◆\$、竜7+ハ▲▲車ク』



………………縺ソ縺弱≠繧キ 縺懊s

 縺溘>縺倥e繧……ヲ 縺代@繧………

  ュ 縺ソ縺ゥ繝ェ 縺ゅ° 繝ヲ繧ヲ……繝、繧ア 縺倥%

       繧ッ 縺イ縺ィ縺阪……e繧ヲ繧

 オ繧薙↓ 縺ェ縺…………槭>縺帙″ 繧ヲ繝槭

    Ζ繧ュ繧ゅヮ 繧ゅs 縺イ繧九

        a 繧ヲ繧キ繝ュ 縺……ォ

           縺倥e繧ヲ繧…

        ……エ縺ィ 縺ッ縺。繧

     √→繝ォ 縺後′縺。 繧、……繧ェ繧ヲ縺

  オ縺励g縺上i繧薙……♀

    繧ヲ 縺翫→縺ォ……

     …縺

   倥e繧ヲ

   繧オ繝

    ウ縺ァ

   ……

   縺励

   …

   ∋繝

  ‥

  ォ

  ,


 

 「……──ッッぅぅぉおオアア"ア""!!」



 死を覚悟したその瞬間!


    全てが終わったその瞬間!


        潰れるはずだった俺の身体が、稲妻を描いて消滅した!


 すんでのところで凶器をかすめ、汚らしいいななきをだけを遺して。わずかばかり、本当にわずかばかりだけ真横へと、死のふちから生存の一縷いちるだけを手繰たぐり寄せ、回避していたんだ。


 「あ……ハァ、……っ、?……ハァ、!?」


 一体?全体?いやいや 0.1 体も解らない。自分の事だというのにミリとして理解が及ばない。"どうして?" と打ったボールがひたすらに、ただラリーを繰り返している。けど生きてる。


 それを考える時間も、喜ぶ時間も、ドコにも存在してはくれなかった。


   『ギィィオオオオオアアア!!!!』


「うオぁぁぁあ危ッぶねぇ!!──っバカ!」


 頭上、罵声と叫び声が呼応する。間違い無く当たる筈だった一撃を外した "ソイツ" の攻撃が再開されたサイレンだ。

 眼下でちょこまかと逃げ惑うウザったい小型霊長類に、今度こそ潰れたトマトのコスプレをさせようというのだ。


 けどな、けどな! コッチだってさっきまでの金縛りは解けている。そう簡単には捕まりゃしねぇ!


 ヒラリヒラリと舞遊ぶように姿見せるなんて大層なコトはできない、いつ命が殺りんスッ飛ントンしてもおかしくない、産まれたての おむすび みたいな動きだけど、そうなんだけれども。


 それでも人間、追い詰められた時に限って身体が軽いモンで。不思議なモンで。

 必死とは言え、奇跡とは言え、あぁそうさ何とでも言え!!逃げ延びていた。


 ──逃げ延びれていた。


「コウヤぁ!だいじょうぶですかぁぁ!?」


 岩陰の奥の方から不意に、殺人未遂の罪を犯した容疑者ヒルメの声が聞こえる。


「大丈夫なワケあるかボケェェ! テメーよくもおとりにしやがったな! 後で覚えとけやァ!!」


 トカゲ野郎と命知らずの鬼ごっこを続けながらも、出来る限りの大声で彼女に怒鳴り返す。


「まだ叫ぶだけの元気は有るようですね! 安心しました! その調子であと一、二分持ちこたえてください! 頼みましたよ!!」


「ア"ァ!? 無理に決まってんだろ!!、何ザけた事 わめいて──ッ!?」


 二発目となる罵詈ばり雑言ぞうごんの標準を合わせようとした口は、途端につぐまれてしまった。

 彼女の彼女の掌にて始まった、目を合わせられない程にまばゆい神秘的な輝きが、唯一の理由だった。


 逃げながらでそうずっとは、と言うかほとんど 5 歳児がノートのハジに作ったパラパラ漫画並みのコマでしか見れないんだが、その一枚一枚すべてが、先ほど枕元で目覚めた時の奇跡 如きでは到底 叶わない程の、



  そんな美しさをまとっていた。




  ―――――――〽︎——————

    

マバユヒカリラシシ、ハゝ"宿痾シユクア 穿ウガモノ


 耀カゝ"ヤ日輪ヒノワツカサドリ、ソヨ日向ヒナタマボリシモノヨ』


 辺りの空気を幻想に染め上げながら、いよいよ初まった魔法の詠唱。得体の知れない不可思議な神秘に、ピリピリと皮膚が震える。


 普段お花畑きょうかいや街で耳にするのとは余りにも掛け離れたソレは、まるでよいに小鳥が一匹、秘めたる慕情ぼじょうささやいているのかと思う程に透き通った か細い声にも関わらず、断末魔を張り上げながら仲良くバケモノと追いかけっこ(殺意)をしていた俺の耳にまで、何故かハッキリと聴こえた。


『遙カ天上ニ神留坐ス大日孁ノ命以テ、遍ク万象ヲ導キケリ太陽ヨ


 跋扈セリ諸々禍事ヲ、祓へ給ヒ清メ給フト申ス事ノ由ヲ、畏ミ畏ミモ白シ上ゲル』

  

       ─────コウヤァ!!」


────ッッ!!


 知らない解けない覚えの無い。そんな唄を聴いては、何処か浮世めいた気分で逃げ回っていた耳をつんざくかのように、叫びが投つけられる。

 産まれて初めて聞いたドス入りの女声にビビり散らしながらも、俺はその真意を本能的に察知して、声元よびぬしの待つ岩陰へと飛び込んだ。


「うぉぉおっし!、ハァ……コレで、ハァ……合ってんだよな!?」


 気力を振り絞って飛び込み終えた先、横で待っていたヒルメに確認を取る。


「えゝ、後は伏せといて下さい! 直で見たら失明 間違いナシなんで!」


 若干 不穏なワードを挟みつつも、恐ろしさがウソのように消え、元のトーンで応えるヒルメ。しかし元なのは声だけだった。


 髪や腕は白銀に煌めき、眼は蒼碧に染まり、全身には赤い隈取りがほとばしり、背には太陽の如き後光が射していた。

 美しさを遥かに通り越して、恐ろしさすら感じさせるその容姿は──、

 最早というか間違い無く、現実というモノが置き去りにされた、常識というモノが掻き消された姿だった。


 ……女神だった。


「……、──っっ参ります」


 静かに静かにつぶやいた。誰に向けたのか、俺を追いかけてきていたバケモノにだろうか、それとも自身にだろうか。俺じゃないことだけは確かだった。


『此処に納めし祝詞を以て、

        我希めりは破魔なる光』


―――今っ、万和 荒みし悠久を越へん!!』




   『唸れ!! 燼 魔 滅 霊 掌ジンマメツレイショウ !!!!!』



 この世のものと思えぬ叫び声がこだましたその瞬間、焼け付くような爆音と衝撃が、背中を強くつんざいた。


 限界まで閉じた瞼の向こう、崖下の一帯。


 今、まさに太陽は落ちて来たのだろう。


 熱く眩い閃光、紅一色、世界はそれだけに包まれた。




────────────────────


ようやく一話が終わった気分です。ここまで読んでくれた皆様、本当にありがとうございます。


意味不明なタイトル、長ったらしい展開、クセの強い文章。皆様の応援に頼り切るしかないヒモみたいな本作ですが、コレからも頑張って参ります。


皆さま応援、よろしくお願い致しますm(_ _)m


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