新しい日の訪れ
王家付きの闘神官たちが一堂に会する姿は壮観である。胸には金色の鳥の刺繍。この大国トーラディム王国を守り続けている最高位の闘神官達。
私も闘神官の制服に袖を通し、その中の一人としていた。
陛下の王座の横にその闘神官達を束ねる大神官長が立っている。師匠がきっちりとした正装で身を固め、白いローブを身に着けている。柔らかな微笑みを浮かべ、黙って佇む師は神々しさすらある。
キサは赤や金の糸を使った細かい刺繍が縫われたいかにも高そうな服を着て王座に悠々と足を組み、肘に頬をのせて、余裕な雰囲気で座っている。若い新王なのに、王座に魔法でもかかっているのか、すでに王のオーラを放っている。
私と目が合うとニコッとした。慌てて目を伏せる。なっなんなの!?今ここで、こっち見なくてもいいよね?動揺する私。
そして闘神官達の中にはダントンとクラリスといた。二人とも今回の功労者として認められ、王の信頼に足る者であり、王宮で闘神官として勤めることを許された。
一人じゃなくて、安堵した。心強すぎる!
キサが立ち上がった。ピリッとした緊張感が漂って闘神官達が姿勢を正す。
「ここに集まってもらった者たちがこれより王家の護りにつくことになる。これからよろしく頼む」
一斉に膝をついて忠誠を誓う。
「闘神官としての務めを果たすことをここに誓います」
代表の闘神官がそう言うとキサは頷く。
「神の鳥の名において任命する」
闘神官達は頭を垂れる。
闘神官達への挨拶が終わるとそれぞれが自分の役目である場所へと去っていった。ダントンとクラリスもそれぞれの役目があり、軽く私に片手を挙げて挨拶して、去っていった。
私は……というと、キサの側に静かに控える。シェイラ様の護衛をしていたエイミーのような役目である。キサは陛下ということあり、私以外にも3人ほどまだ控えているが。
「やれやれ、やっと終わりましたね」
めんどくさそうに師匠が言う。キサがフフフっと可笑しそうに笑った。
「ミラ、緊張してただろ?」
バレていた。口に出して言わないでほしいものである。
「俺なんかもっとたくさんの人の中で挨拶したんだぞー!」
「それは王だから仕方ないでしょ……私はあんまりこういう儀式的な場を経験したこと無いんだもの」
学院の入学式も遅刻したことを思い出す。もはや懐かしい。
「……それはマズイな。アイリーンに連絡して、ミラに社交界の場の練習が必要だって言っておいてくれ」
事務官にそう命じる。
「ちょっ!違うでしょー?私は闘神官でしょ!?」
あれ?そうだったかなーとニッコリとほほえむ。わかっててからかってるのだ!
私は不貞腐れて半眼になる。師匠が横で吹き出すのを堪えている。
「なんで師匠もニヤニヤしてんです?早く神殿へ行かないと!陛下も仕事、仕事っ!」
「悪い悪い。つい浮かれてしまったよ。これからよろしく。王妃に転職をするならいつでも受け付けてるよ」
「……っ!!」
顔を赤くした私に我慢できず師匠はププッと吹き出す。
しかし、いきなりキサが茶化すのをやめて、真顔で私を見た。
「そういえば、数ヶ月でミラの髪の毛の色が変わってる気がするんだけど、俺の気の所為か?」
師匠がスッと笑顔を消した。私もギクリとした。そうだ。ダークブラウンの髪の色が……師匠のような白銀に徐々になってきている。
あの夢を見始めてからだ。そして力も以前より強くなってきている。
そのことをあまり今は考えたくなかった。時々見る夢だけで手いっぱいというのが正直なところだ。
「そうなのよね……なぜか……」
言葉に詰まる。師匠と私の雰囲気に察したキサはこの場で言いたくないことだと判断したようだ。
さ、仕事しようと言って立ち上がった。
外は草木が枯れ、寒い冬がやってくるのに、王宮は新しい王を迎えて明るい華やいだ雰囲気が続いている。
もう一度、王都で迎える春が来る頃には私も闘神官の仕事に少しは慣れているだろう。
私の新しい生活と共に、新しい王の時代が始まった。
田舎娘は闘う神官に就職したい! カエデネコ @nekokaede
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます