夢、叶うとき

 眠ると時々、夢を見た。


 笑いさざめく人達。


 神殿の正装用の服に似たものを着ている。天空に住まう人々だ。美しい場所だと見回す。


 鳥たちが時々、木々にとまりにくるが地を這う獣はいない。


『長様!』


 そう呼ばれて振り返ると白い帽子を被った小さい子どもたちが木々に実った赤い木の実を差し出す。


 ありがとうと手を伸ばして、受け取った。


 その瞬間、ドンッと音がして空中を見上げるとドーム型にはられた結界の外に巨大な飛行船が大砲を撃ってきた。船の小さい扉がいくつも開き、中から無数に鳥型の黒い獣たちが飛び出してきて、ペタペタと結界に張り付き出す。


 空中を睨み付ける。


 怖いと私に抱きつく子どもたちやこちらに向かって慌てて走ってくる人々。


 増える黒い鳥たち。気持ち悪い。悪意と殺意が外から感じられる。圧迫感。


 これは夢なの?夢なんだから、早く!早く!目を覚ましたい!


 そう思うけれど自分の意思に反して夢は続いていく。


 私は手を外へ伸ばす。怒りが沸き起こる。ここへ近づくものは許さないという激しい感情。


 爆発音と共に飛行船から火の手が上がりバラバラになって船体が地上へ落ちてゆく。


 スッと手を横薙ぎにすれば黒い鳥たちは光の矢に撃ち抜かれて塵と化す。


 攻められているのに余裕すらある力を見せつける。


 そして恐ろしいほどの破壊行為をしたのに、口の端に笑みを浮かべまでさえいるのは……自分なのか?好戦的で残酷な一面をのぞかせる。


 それがゾッとした。


 害を為すものは全部消してやろうとする心の中の怒りの炎がチリチリと痛い。


「………っ!」


 目が開いた瞬間、起き上がると汗をびっしょりかいていた。呼吸が苦しい。鼓動が早い。顔を手のひらに埋める。


 自分がどこにいるのかを把握させる。ここはどこだろう?


 見慣れた部屋。ベットの横にあるランプを震える手でつけた。薄暗い部屋がほのかに明るくなった。


 山の中の家は静かだ。野生の鳥が時々、夜なのに鳴く。


 神の鳥に会ってから、頻繁にこんな夢を見るようになった。


 誰が私になんのために見せているのだろうか?神の鳥がいると言われる王都から離れれば見なくなるのでは?と思ったが、まったく効果がなかった。あの金色の神々しい鳥が見せているわけではなさそうだ。


 見たくない。怖い夢はもう嫌だった。あまり楽しい内容ではないことのほうが多い。


 もう眠れそうにないので、本を読んで気を紛らすことにした。


 朝まではまだ遠い。


 寝不足気味の日々が続いているので木陰に入って、ヤギのユキちゃんや牛のももちゃんが草を食べるのをボーッと見守りつつ、休憩する。


 長閑である。変わらないことの退屈さもあるけれども今はそれがホッとする。


 冬に備えて牧草ロールを置いてあるので、それを背もたれにする。足を伸ばす。


 ウトウトしかけたが、ただいまーと声がして起きた。師匠の声だ。


 戴冠式が終わって帰ってきたようだ。


「そこにいたんですかー?」


 ニコニコとしながら、私の貴重な昼寝タイムを遠慮なく邪魔してきた。


「おかえりなさい」

 

「久しぶりに帰ってきたのに、素っ気ないですね。顔色も悪いですよ?どうしたんです?」


「寝不足なんです。ちょっと聞きたいことが。……師匠は変な夢をみたりしない?」


 師匠は怪訝な顔をして首を傾げた。


「どんな夢を見るんです?誰でも夢は見ると思いますけどね?」


「どう説明していいのかな?誰か違う人の人生を垣間見ているような夢なんだけど、これもルノールの民の能力なの?」


 なるほどと師匠は悟ったようだ。私の顔を覗き込む。


「道理で闘神官になりたいとか王都に残りたいとかゴネずに帰ってきたと思いましたよ。あの事件の後から見ているのですね?こんなときに一人にして悪かったですね。その夢はルノールの民の能力といいますか……ルノールの長が最後に放った力の欠片とも言われています。過去の真実を民が知ることができるように残した遺産です」


 文字で残せば第三者に消され、改ざんされることもあろう。


 よく考えられていると感心したが、視る方は辛いし、疲れる。


「神の鳥に触れたせいですかね?思ったより早い段階で夢を見始めてますね。わたしが見たのは大神官長になってからでしたよ。何故、今まで言わなかったんですか……」


 労るような目を私に向ける。


 師匠も夢を見たならば、この現実か夢かわからない怖さを味わってきたのだろう。


「神の鳥に触れてしまった影響なのかと……一時的かと思ってた」


「一度、見始めるとしばらくは続くと思います。少ししんどいかとは思いますが、力あるルノールの民はある程度の過去を知ることになります。これは宿命なのか義務なのか……ルノールの民の長が残された我々に警告として伝えているのでしょう。力を誇示しすぎれば世界から弾かれると。だからミラにも禁術を使わないように言ったのです」

 

「心配してくれてたの?」


「どうでしょう?私が怖かったのかもしれません。私は大神官長の称号を与えられていますが、王家と神殿に仕えていることで存在を護られ、監視されているのですよ。もし他国へ行ったり裏切ったりすれば、この力を放置することは危険とみなし、必ず闘神官が追ってきますよ」


 ひと呼吸置いて付け足す。


「あなたが今は仲間だと思っている者たちが殺しにやってくる。そんな事態だけは避けたほうがいい……そしてそれを命じるのは他でもない王になのですよ」


 きっと闘神官と敵対させないために私を学院にいれて友人を作らせたのだ。


 王家と神殿に対して嫌な気持ちにならぬように。自ら仕えても良いと思えるように。


 どこまでも用意周到たが、私にとってなるべく優しく痛みの少ない道を示してくれている。


 王都から買ってきたお茶菓子がありますよーと家の中に入るように師匠は誘う。


 私はシェイラ様から貰ったお茶を淹れる。


 ふぅと師匠はため息をついて、ゆったりと椅子にくつろいだ。


 お茶菓子は栗を使った甘い焼き菓子だった。口にいれるとホロリと崩れて美味しい。


「夢はそのうちおさまりますよ。大丈夫です。ルノールの血を持つ者すべてが見るわけではないようですし、不思議なものですよね」


 安心させるように師匠は私に優しく言った。


「はい……そういえば、戴冠式は無事に終わったの?」


「ええ。キサ様は無事に立派な王となられましたよ。久しぶりの神の鳥を召喚できる強い力の王で、王宮は浮足立つくらい浮かれてましたよ」


 そっかー。良かった。とりあえず安心した。王位継承権争いは終止符を打った。


 戴冠式は少し見たかったかもしれない。キサの顔が頭の中に浮かんだが、それを断ち切るように、私はよしっ!と言って椅子から、立ち上がる。


「さて、夕飯はシチューでいいですか?」 


 何でもいいですーっと旅の疲れを癒やすかのように暖炉の前の敷物にゴロゴロと猫のように横になり始める師匠。ひどいギャップだわ。


 これを誰が大神官長と予想できるだろうか?私が気づかなくても誰も責めることができなくない?


 私の心を読んだように師匠が寝転んだまま言う。


「家でくらい自分をさらけ出さないと疲れるじゃなきですかー!」


 ハイハイと適当にあしらう私。


「大神官長の仕事はしなくていいの?山奥に住んでいてもできるの?」 


 今までここにいたのだから、支障はなさそうだが、一応聞いてみた。


「仕事を押し付けられる……もとい。信頼できる副官がいますからねー!どうしてもわたしじゃなければというときのみ動いてるんですよ。そもそも勘弁してほしいです。どんだけ働けと御老体に言うんですかね!?」


 副官にすごくすごーく同情する。きっと有能な人なのだろう。


 私は欠伸を一つして夕飯作りにとりかかった。


 師匠がゴロゴロとしていた数日後、アリスンが帰ってきた。


 上機嫌で扉を開けて入ってきた。私は抱きつかれないように構える。

 

「ハァーイ!帰ってきたわよーっ!」 


 師匠がやばいと慌てて部屋を片付けだす。その様子にアリスンがまたゴロゴロしてたのねと呆れている。


「山が雪で覆われる前に来れてよかったわ。もう忙しすぎて!可愛いミラ、元気にしてたー!?」


 ギューッと抱きついてきた。やはりきた!無抵抗となり、アリスン!と声をあげようとして後ろから入ってきた人物に見間違いじゃないかと驚いて声をあげた。


「キ、キサ!?」


 やあ?とニッコリ笑って、何事もなかったような、いつもの調子で挨拶をしてくる。


 簡素な旅装しており、寒くなって来たので、厚手のマントを羽織っていた。


「なんでここにいるの?王になったのに?」


「ミラの驚く顔が見たかったよ。いい反応だなぁ」


 キサに笑われる。


 私がムッとしたのを見て、ごめんごめんと謝ったが、恨み言を言い出す。


「やっと、一段落して会いに来れた。戴冠式に招待しようとしたら、学院にいないし、勝手に帰ってるし、なんの連絡も無しだし、これくらいの意地悪くらい多めに見るべきだと思うよ。アリスンが一度帰ると言うからコッソリついてきたんだ」


「だめっていうのについてくるんだもの〜」


 アリスンがやれやれと呆れている。


 キサの言葉は正論である。痛い視線を受け止められず、私は目をそらして答える。


「挨拶して帰ろうと、思ったんだけど、王宮には敷居が高くて、行きにくいし…」


 言ってくれたら、あたしが付き添うのに!と、アリスンが横からいう。そりゃ、師匠やアリスンがいたら入れるだろうけど……できなかったのだ。


 学院から離れたキサは距離感があったし、よそよそしい感じで、別人のようにも見えた。


「で、陛下はまだお忙しいとは思いますが、わざわざ使者や手紙などではなく、なんで来たんですか?ものすごく嫌な予感がしますよ」


 師匠はそういうとイヤーーな顔をあからさまにした。


「パル=ウォール師にとってはよくないかもね」

 

 キサが私の手をとった。空色の目が見つめる。会ったときから、この目はなぜか私を捉えてしまう。

 

「王都で傍にいてくれないかな?永久就職ってどうかな?……つまり、俺の王妃にと望んでいるんだけど、いいかな?好きになっちゃったみたいだ」


「え、えいきゅうしゅうしょく!?お、王妃ーっ!?すすすす好きとか!?」


 私は思わず間の抜けた声をあげた。いや、予想外。


 どういうことなの!?師匠とアリスンは顔を見合わせて、苦い顔をした。


「私は平民だしムリムリ!そんなことできない!恋人のフリは終わったでしょ!?」


 キサは断られたのにニッコリと微笑んだ。


「つまり、身分のことや教育を受けていないという理由で困ってるんだよね?俺自身が嫌ってるわけじゃないんだよね?本当の恋人になって欲しいって頼んでるんだ」


「あれっ?えーと……そうなんだけど、嫌いではない。でもっ!」


 なんか誘導されているような?落ち着け私。予想外のキサの発言に上手く私は言葉にならない。


 苦手分野すぎる。そんな思考をグルグルさせている私に満面の笑みをキサは向けている。


 師匠がハッとして、慌てて遮る。


「いやいやいや!大神官長になってくださいよ!?わたし働きすぎでしょう?」


 アリスンがむしろ働きなさいよとボソッと言う。


「その仕事スタイル…今に始まったわけじゃなでしょっ。昔からじゃないの。副神官長のレスターが愚痴を毎回、会うたびにあたしを捕まえて、言うんだから勘弁してよね」


「堅苦しいところ合わないんですよ。それに王妃なんてものになったら辛い思いするのはミラですよ。アリスンいいんですか?」


「そこよねぇ。いろんな黒い思惑がひしめく王宮に入れるのが嫌なのよね。ぜーったいミラは傷つきそう。でもね、王妃になるなら、可愛いミラを全力で王宮にいて守るわよ?お嫁にはやりたくないけど、誰かを想う気持ちはあたしもわかるもの」


 師匠がいきなりアリスンにほほえみかけられて珍しく怯んで目をそらした。


「俺も守るよ。それに王妃はミラ以外娶らないことを約束する」


「それは周りの貴族、王族たちが許しますかねぇ?ミラは王妃になるための教育はゼロですし、素質もゼロですよ。これは師として断言できます」


 失礼すぎる!と思ったけどそのとおりだ。王妃になれるわけがない。


 キサはもうこんなこと嫌なんだと言う。自分の母が毒を盛られたり、兄弟たちを追放しなければならなかったりした王宮での出来事がまだ彼の中で納得のいくものになっていないのだろう。


「それに!こういってはなんですが……王妃候補はたくさんいらっしゃると思いますが、大神官長の候補はなかなかみつからないんですよ!?」


 師匠が食い下がる。アリスンがまぁねぇと頷いた。


「確かにミラほどの素質の者を探すのは難しいわ。ルノールの民である必要はないけれど、強い力を持つ者は稀にしかいないもの。あたしたちが大切に育ててきたのよね〜」


「ミラはどうなんです??」


 三人の視線が集まる。混乱していた頭を一生懸命整理する。


「私はその2つの選択、どちらも自信がないわ。まだまだ未熟者だし、力が強いだけでは大神官長にはなれない。そして私は王妃様って柄ではないわ」


 両方無理よと呟く。まだ自分に自信が持てない。アイリーンのように真っ直ぐに突き進む勇気も持てない。

 

 私の答えに師匠は目を細めて微笑んだ。


「王都に行く前のあなたなら、やってやろーじゃないと息まいてたことでしょうね。悩むということは成長してますよ。まあ、恐れや迷いを知るのはいいですが、あまり慎重になりすぎるのもいけませんよ。じゃあ、やはりこのままミラはここで修行を……」


 師匠がそう言いかけたところをキサが鞄から何かを出してきた。


「じゃあ、心が決まるまで、もう1つの選択肢をあげるよ」


 手渡される、すでに懐かしさを感じる生地の見覚えのある服。学院で着ていた制服?


「これって!」


 胸に金色の刺繍。闘神官の制服である。


「そう。大抵は護衛の闘神官を王族はつけている。母はエイミー、タイロンはラガートがいただろう?俺はそもそも自分が目指していたからいなかったが、これからは必要だ。ミラが側にいてくれるといいんだけどな」


「これは……」


 私は考えるより先に制服を受け取ってしまう。ただ単純に嬉しかった。


「考えるわねぇ〜。なかなかの陛下だわっ!ミラの性格掴んでるわぁ」


 アリスンがどこか悔しそうに言う。


「大神官長は許可してませんよ!?いつの間に闘神官の許可が!?」   


 キサがパラリと書類を見せる。私の闘神官に認めるといった文書の下に印が押されている。


「レスターが『ウォール家の娘なら間違いない。人材を出し惜しみすんなって言っとけ』と言ってましたよ」


「レスターっ!?」


 師匠は非難の声をあげたが、いないあなたが悪いんでしょっとアリスンに怒られている。


「陛下のいい案じゃない?大神官長になるにも実績や経験が必要よ。王妃になるにも陛下の側にいてみるのがいいことじゃない?あたしも王宮でミラに会えるし!」


 考えたわねーとキサを褒めるアリスンだが、大事なこと付け加えておくわと前置きして言った。


「ミラを護衛役に任命するなら、修繕費は多めに予算とっておくことをオススメするわ」


 ……城を壊すこと前提?いや、アリスンは私を知りすぎている。私は否定しない。


「ミラ、どう?いいかな?」


「ありがとう。キサ、よかったら、そばに居させてくれる?」


「よろしく頼むよ」


 お礼を言うと、キサは少し照れ臭そうに笑った。


 甘えなのかもしれないけど、怖い夢を見るのなら、一人でいるより皆がいる場所のほうが良い。


 そしてなによりも、キサに必要だと思われていたことが本当に嬉しいと感じる自分がいた。それは口にまだ出さない。


 好意がないと言えば嘘になるが、まだ自分には言えるだけの資格がない。


 とりあえず今は何も考えず、王都トーラディアに帰ろう。私の心が戻りたいと思っているのだから。


 師匠がしかたありませんねぇと言う。


「ももちゃんとゆきちゃんをリンドール夫妻に預けて、今年の冬は王都に行きますか!」


「ん?師匠もくるの?」


「あら?あなたもくるの?」


 私とアリスンは同時に言うと師匠がややいじけて背中を半分向けて言う。


「そんな……一人で寂しく雪に囲まれているなんて、この老人が可哀想だと思わないんですかねぇ」


「嘘よ!レスターは(仕事が減って)喜ぶわよ。それに大神官長が王都にいるのが1番安心できるわよねっ!」


 アリスンがなだめる。めんどくさい若作りの爺さんである。


 しかし最後に師匠はふと真面目な顔つきでキサに向かって言う。


「ミラを王都に置きたい、傍に置きたいとお考えであるならば、陛下もそれなりの覚悟を持ち、全力でミラを守ってくださいね」


 つまり王家の保護下に置き、利用されたり傷つけられたりしないように師匠は釘をさしている。


「もちろんだよ。それはルノールの民というだけではなく、ミラを守るよ」


 その言葉が嘘ではないことをわかっている。


 祠へ駆けつけ、身を挺して守ってくれたことが……禁術使いの私ならば切り抜けられると本来なら放っておいてもよかったのに囚われた私を助けに来てくれた。


 今夜は嫌な夢を見ても、強い気持ちでいられるかもしれない。そんな気がした。


 そっと大切に優しく闘神官の服を手で撫でた。


 師匠は珍しく、少し寂しげに言った。


「もう護符は渡しません。がんばりなさい」


 師匠の見守りはもう無い。助けを求め、呼び出すことはできないのだ。


 王都に一緒いるのだからと私は思ったが何となく首の辺がスースーとするのだった。


 夜、皆が寝静まった時、発作のように私はまた飛び起きる。


 汗をかいた服を着替えて水でも飲もうと、ややふらつく足で台所に来た。呼吸がなかなか整わなくて椅子に手をつく。


 その瞬間、フッとランプの明かりが灯された。

 

 浮かぶキサの姿に驚く。静かに気配を消していたつもりだった。


「大丈夫か!?」


「あ、ごめん……起こしたかな」

 

「なにがあった?」


 キサは眉をひそめる。私の体を支えて椅子に座らせる。


「顔色が悪い。体調が悪いようには日中見えなかったが?」


「水、もらえる……かな」


 ああと言ってキサは水を持ってくる。ありがとうと受け取り水を口に含み、飲み込む。


 やっと落ち着く。まるで力を最大限使った後、全力疾走したかのような感覚。


「アリスンを起こしてこようか?」


 背中をさすってくれている。私は大丈夫だからと呟く。起こすのは悪い。


「夢を見るのよ。金色の鳥に触れて、それがトリガーになったのかと……」


「神の鳥に触れてから?それがなんの夢になるんだ??」


 キサには話しても構わないだろう。


「ルノールの民の過去を夢として見ているの。それもこの世界で起こった過去の黒の時代と言われる大戦時代の夢。ルノールの民が狩られる少し前の話のようね。断片的に場面が繰り返される」 


「なんだって?」


「まるで自分がその場にいて、体験しているような夢で……怖い」


 キサがそれは怖いなと言いながら背中をさすり続けてくれている。


「黒の時代は王家の書庫にも文献がいくつもある……その様子は想像がつく。それを実際に見るのはきついな。夢を止めることはできないのか?」


「師匠はそのうち見なくなるといっていたわ」


「そうか……辛かったら言ってくれ。水くらいなら注げる。なんなら夜、一緒にいてもいいよ」


 ガタッと私は椅子から立ち上がる。顔が赤くなるのが自分でもわかる。


「そ、それはいいですっ!」


「いや、本気だけど……一人で悪夢を見るのは辛いだろ?」


「大丈夫よっ!」


 このキサは……時々天然なんじゃなかろうか?私も世間知らずだけどっ!


「じゃあ!話し聞いてくれて、ありがとう!!」


 自室へ慌てて戻る私。キサは残念そうにおやすみと手を振っていた。


 その次の日に、実はこっそり抜け出していたキサとアイリーンは王都に急いで戻り、私と師匠は一足遅れて王都に向かったのだった。


 





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