花火があがる日

 しばらく私の周りには好奇の目があったが、遠巻きに見ているだけでほとんどの人は近寄ってこなかった。面倒事に巻き込まれるのはごめんだってところなのかもしれない。


 でもそれもわかる。ひたすら、授業と課題をこなす日々で忙しくて、私もそれどころではない。


 戦闘を仕掛けてきたキサのことも気にならないわけではないが、あれ以来出会うことがなかった。いや、出会う暇もないという表現が正しい。


「課題どう?できた?」


 メアが聞く。机に提出の課題を並べて私がなんとか……と小さい声で言った。クラリスが自分のノートを開きながら、私のノートと比べている。


「まあまあだな」


 なんのかんのと面倒見の良い二人のおかげで授業についていけるようになってきた。一ヶ月でようやくだ。今まで勉強していなかったわけじゃない。師匠にもみっちり教わってきていた。……と思ったけどさすがは白の学院だった。

 私の考えはすごーく甘かった。


「メアとクラリスのおかげです」


「あれ!?オレはー!?」


「ダントンはなんにもしてないでしょー!むしろあなたも一緒にクラリスに教えてもらっていたじゃない!」


 メアにそう言われてもダントンは悪びれずに笑って言う。


「ミラだって一人で勉強するより二人のほうが心強いだろー!?」


「はいはい」


 メアが話をさらりと流し、私に向き直った。


「ミラ、落ち着いてきた頃だと思うんだけど、そろそろ王都の街へ行ってこない?午後から一緒に出かけない?外出許可を申請しましょうよ!」


 私の手からパタリと教科書が落ちた。とうとうこの日が来たか!


「行きたい!」


 メアの手を握って、立ち上がる私の勢いにクラリスが驚いた顔をする。


「そんなに!?」


「私が山から出てきた理由の5割は花の都の王都の街を堪能したいからよ!ずーーーっと憧れだったお店にようやく行けるのね!!」


「落ち着いて。ミラ、外出許可がおりるかどうか、まずそこからよ。こないだ騒ぎを起こしたあなたに学院審査部がどう判断するかよ」


「え、そんなのがあるの?」


「もちろんよ、神殿の権威を落とさないように問題行動のある神官や生徒は外出不可よ。神殿の規律はわりと厳しいわよ」


 私が目に見えてがっかりしたのか、メアが慌てて付け加える。


「でもあれ以来、ミラは真面目にしていたから、通るかもしれないわ」


 私が仕出かしたというのは……キサとの演習のことであろう。今になって後悔する私。


「ついていってやろうか?」


『え!?』

 

 私とメアの声がハモる。クラリスが!?


「うーん……そうね!クラリスが一緒に行ってくれると許可は出るでしょうね。組長だし、真面目だし、お目付け役には最適と思われるわ」


「めんどくさいが、王都の春花祭だろ?」


「春花祭?お祭り?」


 メアが頷く。


「そうよ。春のこの時期に行われるの。まぁ、ささやかなものだけど、いろんな屋台も出るし、夜には花火もあるわよ」


「えーっ!花火!?素敵すぎる!」


「人混みが大変なだけだぞ」


 水を差してくるクラリスの言葉はワクワクしている私には半分以上届いていない。メアが申請しておくから、普段着で授業が終わり次第、神殿の門で集合ね!と言った。


「来年、紫の組へ上がるとお祭りの警備とか儀式に参加しなきゃいけないから、今年は十分楽しみましょ!」


「ハーイ!」


 手を挙げて、遠足前の子供のように浮かれている私だった。

 心配していたが、無事に申請がおりて、合流するとメア、クラリス………ん??1人多い。


「オレをおいていくなよー!!なんでだよー!!」


 ダントンだった。メアとクラリスがめんどくさそうな表情を隠さない。めんどくさがるなよー!誘い忘れるなよー!と抗議していた。


「え!ミラはその服装で行くの?」


 そういうメアの服装はかなり素敵女子だった。三編みはほどいてウェーブをたらし、白いレースがついた薄いピンクの普段用ドレスに短いヒールのついた白の靴。まさに貴族のレディである。私は簡易なフード付きの上着にズボンで歩きやすいように柔らかい革の靴だ。


「うん。私、ドレス持ってないから。メアのドレス素敵ね。雑誌の『ファイン』に載っていたやつと似てる!」


 私は食堂の本棚に置いてある新聞、雑誌を時々チェックしている。


「ここのスカートの切れかえが今年の流行なのよね」


 良いなぁと眺める。しばし考えてから決心した。


「一着買おうかなぁ」


「良いとおもうわ!ミラは美人なのにもったいないわ!わたしの好きなお店で良ければ紹介するわよ!値引きもしてもらえるように頼むわ!」


 美人!?そんなことないだろう。初めて言われた。ドレスは憧れだった。雑誌をめくるたびに着てみたいなぁとうっとりしていたのがとうとう実現する!服装にはこだわらないけど、一度は着てみたい願望があるのだ。

 はりきるメア。買い物かーとつまらなさそうになるダントンとクラリス。ドレス選びなんて男にとっては時間が長く感じられランキングのナンバースリーまでに入っているだろう。つきあわせていいのだろうか?私のどうしようという雰囲気が伝わったのかクラリスが片眉をあげて言う。


「そんなことだろうと、暇つぶしに本を持ってきたからお好きなように」


「ありがとう」


 しかし、クラリスとダントンは後悔することになる。女子の買い物は長いのだ。


「ようこそ!お越しくださいました。デュルク様」

 店内の豪華さに気後れする。赤い絨毯、シャンデリア、並ぶ高級そうなドレス、バック、靴。休めるように革張りのソファ。キッチリとした黒服の女性店員がズラッと並んでお辞儀した。戦闘で後ずさりすることはめったにない私が数歩下がった。なに!?これは!?都会では普通なの!?そんなわけないよね?なにこれ。怖い!


「メアはお嬢様なの?」 


「デュルク伯爵家の末娘だ。王家の血筋も入っている。名門貴族。長女は第一王子の婚約者のはずだ」


 クラリスが説明してくれる。メアが苦笑している。


「わたしは自由な末娘よ!8番目の娘なんて父はまーーったく興味もないわ。名前も覚えてもらえてないわ」


 でも政略結婚させられるくらいなら、自分で自分の道を選びたいの。としっかりしたことを言う。私に比べて大人な感じがした。すごいなぁ。ただいま物欲まみれ中の私……だと思ったがメアも相当お買い物好きだった!


「そんなことより、ドレスよ!ほら!ミラは目や髪が濃い色だから濃い色もいいわね!レースはこっちの編み方が今年風よ。靴のサイズもみてみましょう」


「私、シンプルなやつにするー」


「それなら、素材を良いやつにしましょ!このラクーシュ産の生地なんて肌触りも質感も最高よ。あっ!このさりげないリボンの靴、可愛すぎないのが、良いわね。ちょっとミラ履いてみて!」


 怒涛の勢いでメアは見ている。私は物の情報量に目がチカチカしていた。商品が並びすぎだ。

 やっと目星がついてフルコーディネートで試着室から出た私。その頃になるとクラリスは眠そうにし、死んだ魚のような目をしていたダントンはうたた寝しているか話しかけられてバッと起きた。


「へぇ!いいじゃないか!似合ってる!見違えた!」


 ダントンが拍手する。ようやく終わったという安堵が大きいだろう。待たせてすいませんと申し訳なくなる。

 普段着用のシンプルなドレスだが裾にさりげないレースがつきアクセントになるようになっている。布の素材が良いので軽いのにしっかりした布地。淡いブルーのドレス。靴は足が痛くならないように低めのヒールでバックリボンのついた可愛いもの。鞄も革製のショルダータイプで上品にまとめられたコーディネート。

 メアはふふふっと笑う。漂う達成感。お店の人達の出番がないくらいすごかったが、控えていた店員がニコニコして褒める。


「お似合いですよー!今年風のデザインですが、長年着ていただける品質のドレスです」


「えっと、じゃあ、これください」


「かしこまりましたー!ありがとうございます」


 テキパキと私の着ていた服を包む。私はあまり払ったことのない金額にドキドキしながらお金を出した。長く大事に着よう。


「次はどうする?」


 クラリスがようやく口を開く。なぜかずっと黙ったままだった。女子の買い物は分野外だからかな。


「疲れたからお茶しましょう」


「そうしようぜ〜。腹が減った」


 ダントンは授業より疲れていた。わからなくもない。興味のない買い物を延々と見ていたのだから。


「ミラはどこか行きたいとこある?」


「カフェに行きたい!」


 オッケーとメアが先頭を歩く。着いところは甘い香りが漂う店。周りは若い女子だらけかと思いきやそうでもない。老若男女がいる。


「メインはパンケーキとクレープだけど、世界各地のお茶を取り寄せていて、気に入ったお茶は購入可能よ」


 クラリスがお茶の名産地メルホメール地方のお茶をこの店で購入したことあると言う。カフェ兼お茶屋さんらしい。座り心地のいいソファタイプの椅子に座る。充実したメニューに目移りし、なかなか決めれなかったが、生クリームと季節のフルーツのパンケーキにした。お茶はクラリスがおすすめしてくれた紅茶にした。 


「なにこれ!フワフワの生地!!」


 私は一口食べてパンケーキに感動する。フワフワだがしっとり感もあり、生クリームに絡めると甘さがさらに増して絶妙に合う!口の中が甘くなったところで酸味のあるフルーツを食べてスッキリさせる。


「お茶も飲みやすいし、この香り、癖がなくて良い!」


「このお茶は一般にも出回っているが、この店のオリジナルブレンドはなかなかレベル高い」


「クラリスはお茶オタクなんだよなー。自室のミニキッチンにお茶が並んでるよ」


 ダントンがハンバーガーにかぶりついてそう言う。


「さて、花火まで自由に過ごすか?もう買い物の付き合いはごめんだ。古本屋に行きたいんだ」


「賛成だ!オレは知り合いの店へ行きたいしな」


「いいわよー。ミラはどうする?わたしと来る?」


「大丈夫よ。地図もあるし!大通りのお祭りの屋台を見て回るわ」


 みんな貴重な外出日だ。行きたいところ、やりたいこと色々あるだろう。日々忙しくて自由な外出の機会はなかなか無い。クラリスの提案に賛成し、しばらく解散した。


 花火の時刻に噴水広場の時計の下でと集合を決めた。夕方の色が濃くなってきていたが、街はお祭りということもあり、人出も多く賑わっている。屋台には熱々の肉がジュージューいい音をたてて焼かれていたり、クルクルとカラフルな綿菓子を巻いていたり、子供が好きそうな玩具が売られていたりして、いつまで見ていても飽きない。甘栗の袋を1つ買う。夜食にしよう。受け取った袋はまだホンワカ温かい。


「ありがとねー!」


 小太りのおばちゃんが元気よく言う。お礼を言われていえいえと私は軽くお辞儀する。のんびりと屋台を見て回るうちに薄暗くなる。キラキラと夜に光る玩具をつけた子供たちが目立ちだす。


「ミラ?」


 その声にハッとする。振り返ると久しぶりにみたキサが立っていた。白いシャツに黒いスボンの簡易な普通の服装だが、その横には美少女を連れている。誰だろう?濃い金色の髪の碧眼。お人形さんのような白い陶器の肌に白と黄色の花の模様がついたフワッとしたドレス。2人並んでいると美形男子と美少女でかなり目立つ。


「なんか見違えたね!ドレスを着ると別人かと思ったよ」


 そう?と軽く返事をした。キサに言われると複雑である。着飾ったところで平凡な容姿の私だしなぁ。素直に受け止められないなとひねくれた自分に苦笑してしまう。キサが美少女を連れているせいかもしれない。なんだかモヤモヤする。こんなに自分の外見を今まで気にしたことなかった。これも王都ならではなのかな。都会マジックね。


「どなたかしら?」


 隣の美少女が不機嫌そうに口を開いた。


「こっちはミラ。同じ白の学院だよ。藍色のクラスだ。こっちはアイリーンで紫のクラスだ」


「よろしくアイリーンさん」


 キサに紹介されて、私が挨拶すると碧眼の目がさらに険しくなる。敵意を感じる。なんでだろう……。


「わたくしに会って驚かない人なんて初めてですわ!最年少の紫組の天才と呼ばれてる、このわたくしを知らない人がいるなんて。それからキサの婚約者ですの」


「自分で天才とか言っちゃうかなぁ。元婚約者だよ。君が7歳のときに破棄してるから自由だって言ってるのに……」


 横からキサが淡々と言うが無視する少女。私に噛みつくように言い放つ。


「その田舎くさいスタイルはなんですの?」

 

 スタイル!?王都のお店で買ったのに……やはり山から出てきた雰囲気は消せないのね。ややショックだが事実なので、特に反応しないことにした。そんな私にさらに言う。


「王都の品位、神殿の格を落とさないでもらいたいわ!あなた、ミラとか言ったかしら?」


「アイリーン、悪いけど先に神殿に帰っててくれないか?ミラに用事があるんだ。一人で帰れるよな」


 キサに言葉を遮られるアイリーン。ぷぅと頬を膨らませる。その仕草すらも可愛い。


「これから花火なのに!?」


「そんな珍しくもないだろ?それに俺が一人で行きたいっていってるのに勝手についてきたのはアイリーンだろ。そろそろ学院へ帰れ」


「なんですって!?」


 アイリーンが怒っても睨んでもキサはハイハイと流す。キッと私を睨んでからフン!とそっぽを向いて歩いて去っていく。


「小さい嵐だわー。一人で帰れるの?送っていかなくて大丈夫?」


「王都生まれ、王都育ち。白の学院の紫組のアイリーンを襲う人はいないよ。見てわかるだろうけど目立つ子だし、騒ぎが起きたら3倍の騒ぎになるからすぐどこにいるかわかるよ。それよりアイリーンが失礼なことばかり言って悪かった」


 別に構わないわよと肩をすくめる。ああいう裏表のない人はどちらかとか言うと好きだ。なんで私に敵意、丸出しでかかってくるのかわからないけど。今、会ったばかりだよね……。


「ちょっといいかな?」


「いいわよ?」

 

 キサがやや大通りから外れた人気のないところへ誘う。愛の告白!?なんて雰囲気ではない。深刻そうな表情をしている。


「聞かれたくない話?」


「大したことではないんだけど、ミラの戦い方を見ていて推測だけど、魔物とは戦い慣れてるよね?」


 キサが瞬時に防御壁を作り声が外へ漏れないようにした。内緒話か。


「そうかもしれない。魔物が山に出たり、魔物の討伐を頼まれたり……どうしたの?」


「おかしなこと聞くかもしれないか、魔物が自我を持ち、人を襲うことを見たことは?」


「魔物がそんな知性を持って動いているのは見たことない」


 即答する。魔物は単純に獣のような存在で熊が人を見たから襲うという行動に似ている。だから人だけでなく家畜や山の動物がやられることがある。


「キサは見たことあるわけね?」


「勘違いかと最初は思ったんだ。それで何度も外へ出て試していた。その結果は毎回ではないことがわかった。しかしなぜか俺を狙ってくることが時々ある。銀組で討伐依頼を受けて行ったとき、動きもまるで人が考えられているような動きをする。数多くの研究者たちが魔物の研究をしてきたが、自我や知性があることはないと否定されているから不気味なんだ」


 私は頬に手をやる。自分の記憶を手繰っていく。


「師匠の書庫のかなり昔の時代の文献で見たことがあるわ。それは魔物が自ら動いているわけじゃないわね。たぶんどこかに操る人がいる。たまに特異体質で獣使いの素質がある者が魔物も操ることが可能な者がいるって記してあったわ」


「やはり狙っているのは魔物じゃなくて人が絡んでる可能性が高いか」


 そう思うと私は頷いた。魔物になにかあると思うより操っていると考えるほうが妥当だろう。キサは心当たりはあるらしい。予測はしていたのだろう。


「私と王都の外で会ったのもそのせいだったのね」


 キサが頷く。自分が襲われるかどうか試していたのだろう。


「できれば人を疑いたくないんだけどね……そうもいってられなくなってきた。自分の身の危険だけじゃなく、一緒に魔物の討伐や演習へ行っている銀組の仲間の身も危ない。予想していた以上の数の魔物がでるんだ」


 キサは相当強い。多少のことなら自分で跳ね除けるだろうが……。


「実際に何度か銀組に怪我人がでている。討伐をしてほしいと言われて行くと報告にはなかった上位の魔物がいたり、30匹以上の魔物に王都近隣でも遭遇したりする。王都の傍は魔物避けの結界があるから本来ならば少ないはずなんだが」


「30匹?それは異常に多いわね。魔物がそんな群れをなすことなどないし、見たことない。何か恨まれる様な心当たりはないの?」


 キサが首を横に振った。


「これ以上は話せない。ミラを巻き込むことになるからね。ここまでだ」  


「ここまでって!気になるでしょ!」


「本音を言うと……利用しようかなと最初、会ったとき思った。ミラは強いからね。だけど俺と同じ白の学院で学ぶ学生だし、まだ若い。命の危険にさらしたり人の黒い部分を見せたりしたくない」

 

 王族だから育ちが良すぎるのか?優しすぎると感じる。禁術のことをばらすぞーって脅して私を使うこともできるのに。


「あなたが思う以上に私は大人よ!」


 アハハと笑われる。そして真顔になる。


「子どもだよ」

 

 アッサリと言う。この話はもう終わりにしたいようだ。

 私は仕方ないな溜息をつくと首につけていた銀色の板がついたネックレスを取ってキサに渡す。眉をひそめて訝しがる。


「変なものじゃないわ。話はこれ以上聞かない。だけど、これを身に着けていて」


 キサが受け取るとジッと銀板を見る。


「細い古代文字が彫られているし、相当な魔力が込められている。大事なものじゃないのか?」


「師匠から貰った御守りみたいなものよ。失くしたら怒られるから頼むわよ!貸すだけよ?」


 あげないわよ!と念を押した。


「本当に危ないと思った時に『星の子の名において』と念じて語りかけて欲しいの」


「そしたら?」


「発動する。効果は使ってみてのお楽しみよ」


 全貌を話さないキサへの仕返しのように私もプイッと横を向く。


「私は敵じゃないから、とりあえず信じて着けていて」


「敵でないことはわかる。だからこの話を相談したんだ。黒幕はあんな偶然ひょっこり現れて時間がないのに人助けしないからね」


 遅刻のことをまだ引っ張ってくる!?とキサに言おうとしたがその瞬間、ドン!と音がして花火があがった。音に驚いた!パッと明るい空になる。キサがあっちだと指差す夜空を見上げる私。

 一瞬、攻撃でもくらったかと思いました。


「キレイねー。初めてみた!音はこんなにするものなの?」


「そうなのか。大きい音はするものだ。」


 ドン!とまた1つ星の花が咲いた。キラキラチカチカしている。音がすごいなー!耳の奥に残る。


「術の力じゃなくて人の手で作られているのだから職人さんは凄すぎるよな」


「ほんとねー。なんだか不思議な感じがするわ」


 一度に何個も上がってくる。満天の星空のようだ。上がっては消えてを繰り返しちょっと煙の臭いが風にのって流れてくる。魔法のようなのに魔法ではないのがすごいと感心して見てしまう。


「俺は王都の人々が好きだし、良い人達に囲まれている。そんな国に住んでいて、国民を守っていきたいと思っている」


「立派な王族ね。この国の民もそう思われて幸せ者だわ」


「ああ……」


 花火に気をとられているふりをしてキサの表情をみると笑っていなかった。花火の明かりに照らされる顔はどこか影が落ちていた。


 深入りするつもりはなかったのに護符まで貸してしまった。


 彼を見ているとなぜか私の心がざわざわとざわつきだすのだ。

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