04話.[いいよ、行こう]
「はぁ、自分のことじゃないのに心臓に悪かったよ」
「色々考えていても動けなくなるだけだからね、勢いでやらないと駄目だったんだ」
志津といられる時間が一番落ち着ける。
この子にとってどうなのかは分からないけど同じようなものだったらいいななんて思った。
「だけどともかは上手だね、気になっている人から『付き合って』という言葉を引き出すなんて」
「向こうもそうでもしないとやっていられないというだけだよ」
「でも、嬉しいでしょ?」
んー、特にそういうのもないんだよなあ。
私自身が既に諦めかけていたというのも影響していた。
だってドキドキできないし、毎回そういう感想になることは目に見えていたから。
まあずっとこんな感じだから誰が相手だろうと同じような感じになってしまうだろうけどさ。
「端君は元気かなー」
「元気だよ、あと『忙しいのは分かっていても久間さんに会いたいです』と言っていたよ」
これは嘘ではない、昨日ちゃんと本人から聞いたことだった。
ことこういう事に関しては嘘をつかないようにしている。
「うっ、揺れてしまう……」
「会えばいいでしょ、端君は求めているんだから」
嫌がっているのに無理やり絡んでいるというわけではないのだから。
そろそろ悪く考えてしまう癖を直した方がいい、そのままだと恋なんて一生できなくなる。
端君がいてくれるだけで変われるということなら、それなら私はあの子に彼女を任せたかった。
「い、いまから行かない?」
「いいよ、行こう」
端君は基本的に十七時ぐらいからあれを始める、遅いときは十八時ぐらいからになるので合わないときもある。
あとやらない場合はさすがにずっと見てはいられないため、結局一緒にいられている時間というのは前までとあまり変わっていない。
「端君だ!」
目がきらきらしている。
彼女はベンチに座るつもりはないみたいだからひとりで座った。
ここでは色々なことが起きる、そのほとんどは悪いことではないけど落ち着ける場所が落ち着けない場所に変わっている気がした。
気の持ちようだから自分に問題がある可能性も存在しているけど。
「こんにちは」
「こんにちは、眞屋さんの家はここから近いの?」
「ええ」
「いいね、ここは誰もいなければ本当にいい場所だから」
「その割にはこの前も微妙そうな顔をしていたけれどね」
あのときは彼女も高安君もいたわけだから誰もいないとはならない。
それにしても顔に出ていたか、表情に出やすいとは言われたことがないから珍しいこともあったものだ。
「やっぱりあなたにしたわ」
「期待はしないでね、まだまだどうなるのかは分からないから」
冷静ではないからあんなことを言っているだけだと思う。
冷静になればきっと変わる、ううん、それどころか既に後悔している可能性だってあった。
「大丈夫よ、困ったらどんどん言ってちょうだい、動ける範囲で動いてあげるから」
「うん、ありがとう――あ、あのときもありがとう」
「あれは自分のためよ、だって勝手に動かれてむかついたもの」
許可も貰わずに勝手に動いたわけだから本気で叩かれてもおかしくはなかった。
でも本気で叩かれていたら自分が悪いとは分かっていても意地を張って悪い結果になっていた。
だから彼女は叩いてきたのに私を救ってくれたことになる。
「それにしても純が……」
「やっぱり複雑?」
「なにかしらね、そういうのもあるのかもしれないわ」
これはそれなりに時間が経過した後に面倒くさいことになりそうだ。
となると、のめり込むのは危険だから気をつけなければならない。
なにかが間違って仲良くできてしまった場合には影響力が違うから。
「それより久間さんといるあの男の子は誰なの?」
「近くの中学校の子なんだ、最近話すようになったんだよ」
「なるほど、久間さんはあの子に興味があるのね」
「揺れているみたいだね」
私以上に丸分かりすぎる。
だけどあれは恋をしているときには有効的かもしれない。
変に頭がよかったりするといつまでも伝わらずに時間だけが経過するなんてことにもなりかねないからだ。
ひとつ心配なのはあれが恐らく初恋ということだった。
初恋は実らないなどと言われているからそれを覆せるかどうか……。
「あなたは暇なの? それならいまから私の家に来ない?」
「あ、じゃあ挨拶をしてくるよ」
「ええ」
挨拶をした結果、全く引き止められなくて寂しかった。
やっぱり端君は志津の方が好きなんだな。
それならそれでいいけど、多少ぐらいはねえ?
「ここよ」
「本当に近かった」
上がらせてもらってリビングに入らせてもらう。
ソファに座るのはなんとなく微妙だったからその近くの場所に座った。
「はい」
「ありがとう」
しっかしなんか変なことになったな。
高安君が警戒しなくなったり、彼女との時間が少しずつ増えたり、落ち着く毎日とは残念ながら言えないけど。
「昨日純が直接諦めると言ってきたの」
「ああ、それで今日これまでの時間で考えた結果がさっきのやつか」
「諦められるとそれはそれで気になるのね」
「もうそうなったら次へと動くのが普通だからね」
戻ることは……タイミング次第ではありえるけど……。
「けれど安心しなさい、私が好きになることはありえないから、時間が経過した後にあなたの邪魔をすることは絶対にないから」
「ねえ、そうやって言い聞かせているだけなんじゃないの?」
「違うわ、それに本当に好きならとっくに動いているわよ」
そりゃそうか、彼女が恥ずかしがって動かないでいるところは想像することができない、無表情でなんでもできてしまいそうだ。
まあこれは勝手な偏見みたいなものがあるのは認める、この短時間の彼女からそうだろうなと想像しているだけだから。
それでも想像するだけだからセーフということにしてほしかった。
「あ、誰か来たわね」
ご家族ならインターホンを鳴らしたりはしないから違うということになる。
友達なら帰るのもありかもしれない。
「久間さんに聞いたんだけどまさか聖奈の家にいるとはね」
「なんだ高安君か、高安君なら帰らなくていいや」
来たばっかりで歩きたくなかったからね、これはありがたい。
しかし振られた後も平気で家に来るのはどうなのだろうか。
それとも告白はしていないからノーカウントということなの? 彼が分かりやすく行動していないのであれば全部が全部悪いわけではないか。
そもそもそれを決めるのは彼女で、矛盾しているけど私が偉そうに考えるのは違うということだ。
「……なんか僕に厳しいよね」
「そんなことないよ、さあほら座って」
「きみの家じゃないのに……」
それ、端っこの方で静かにしていよう。
彼女がくれた甘い飲み物が美味しいから味わっていればいい。
別にこのふたりが戻ってくれたって全く問題ないから恋愛ドラマでも見ているとでも考えておけばいいだろう。
「少しだけ複雑な気持ちになったわ、でも、それだけよ」
「うん、逆にいまから変えられても困るからそれでいいよ」
「あっさりしているのね」
「僕は何度もチャンスを貰えたからね」
あら、すっきりとした顔をしている。
こういう顔は見られたことが少ないからなんか新鮮だった。
いまのこの感じの方が好きだな、いつでも同じような感じでいてほしい。
「それに暴走してしまいそうな子がいるからね、ちゃんと見ておいてあげないと」
「杉本さんなら問題ないわよ」
「だけどもし久間さんのことでなにかがあったら?」
「それでも大丈夫よ、少なくともこの前みたいなことにはならないわ」
あの子は端君のことを気にかけすぎているから問題にはならない。
クラスメイトと積極的に関わる子でもないし、悪い意味で目立つような子でもないから問題ないだろう。
なにかがあればそのときは私が動けばいい、彼女のときと違って頑張っても微妙なことは微塵もなかった。
「お花さーん、お水をあげるから元気に育ってよーん」
美化委員とかそういうことでもないけど今日はそんな気分だったのだ。
「放課後になったのにまだ帰らないの?」
「君がいるからだよ」
私がこうしているのはこの子がいることも影響している。
とにかく飽きてくれるのを待っているのにこの子は動いてくれないのだ。
友達が敵視してきて悪口を言ってきたりしないのはこの子のおかげだけど、だからって付きまとわれるのは嫌というわけ。
「君はどうしたら離れてくれるの?」
「ある程度付き合ってくれたらかな」
「じゃあもう行こうよ、出かけるとしても制服から着替えてからにしたい」
「分かった」
似合っていないとかそういうことを気にしているわけではなかった、ただなんとなく制服を着ている状態でお店に寄ったりするのが違うというだけで。
「ちょっと待ってて、すぐに着替えてくるから」
「うん」
お金はあんまり使いたくないなあ、本当に必要なときになかったら後悔をする。
だけど運動が好きなふたりでもない限り、この歳になるとどうしてもそういうことになる。
「お待たせ」
「待ってないよ、じゃあ行こうか」
「って、どこに?」
「おすすめの場所があるんだ、付いてきて」
おすすめの場所か、馬鹿なことをするわけでもないから大人しく付いていくだけ。
時間をつぶせればいい、普通に合わせておくだけで何時間も経過する。
できることならここに志津がいてほしいところだけど、端君との時間を邪魔してまで来てもらうのは違うからできないことだった。
「ここだよ」
「ここは眞屋さんの家の近くだね」
あのお気に入りの場所の近くでもある。
会おうと思えば志津にも端君にも会えるということで少し考えた、考えただけだけどね。
「初めて聖奈と話した場所なんだ」
「おお、そうなんだ」
「紙袋の持つ部分がちぎれちゃってさ、それで中身が落ちちゃって困っていそうだったから声をかけたんだ」
逆に拾ってくれたから一目惚れ~という感じではないみたいだ。
一年生のときからの関係だと教えてくれたけど、いつ好きになったのだろう。
「本気の告白をしなかったのはおかしいね」
彼なら、というか、人気者ならそうであってほしいという願望だ。
同じことを繰り返している、その度に違うかと考えるのに活かせていない。
しかもこれは口にしてしまっているから内だけだから許してというそれも通じないわけで。
「そのときと違って勇気が出なかった」
「ふーん、なんでも上手くできるような子だと思ったんだけどな」
違う、無自覚ではない、彼が相手のときは意識してそうしている。
傍からすれば構ってほしくて言っているようにしか多分見えない。
「恋に関しては上手くできないよ、他のことに関しても完璧とは程遠いしね」
「自分に厳しい子なのかな?」
「違うよ、誰だってこんなものだよ」
「そっか」
彼はここで終わらせるつもりはないらしく次へ次へと思い出の場所を教えてくれた
けど、どこもあくまで普通の場所だった。
別に場所は重要ではないみたいだ、相手がいてくれれば簡単に変わるみたい。
「意地悪がしたいわけではないんだ、僕はきみに僕らのことを知ってほしかった」
「一緒にいる人のことが知ることができるのはいいことだね」
彼や眞屋さんのことが少しずつ分かれば嫌だと感じることもなくなる。
志津が相手のときみたいにできるようになるかもしれない。
それに友達はひとりだけでいいとか考えたことはないので、ふたりぐらい増えたところでなにも問題には繋がらない……はずだった。
自信を持って言い切れないのは彼には友達がたくさんいるからだ。
眞屋さんの方はどうなのだろうか。
教室から出てきているぐらいだから友達が多いというわけではないっぽい?
「そういうところもこれまでの子とは違うよ」
「え、もしかして毎回こうしているの?」
「うん、試したいのもあるからね」
うわあ、それはまた変――面白いことをするものだ。
逆に変人扱いされそうだけどそんなことをする人間なら最初から相手にしたくないというやつか。
しかも友達パワーというのがある、変な噂を流そうとしたところで自分が負けるだけでしかない。
「ははは、そういうところはいいかも」
「え、試しているわけだからあんまりいいことではないと思うけど……」
「いいのいいの」
私と同じでいいことだとは分かっているのに繰り返しているということならそんなことを言ったって説得力がない、だからこれからも同じようにすればいい。
「んー、だけど惜しいよね、眞屋さんといるときの君が一番自然で好きなのに」
「自然か」
「どうにかして眞屋さんを振り向かせる方向に変えない?」
なんてね、こんなの冗談に決まっている。
最初からそのつもりなら私は彼に協力をしていた。
嫌いな相手ではないから間違いなくそうしていた、眞屋さんの性格が悪かったのであればまた違った結果になっていたけど。
「ははは、きみが止めてきたのによく言うよ」
「あ、それっ、いまのも自然だったよ」
「……きみはやっぱり意地悪だなあ」
それはそうか、自然になるのは当たり前のことなのだ。
「意地悪でいいから公園に行こうよ」
「分かった、これまで付き合ってもらったから今度は僕が付き合うよ」
志津と話したくなったのと、端君が頑張っているところを見たくなっただけだ。
彼もスポーツが好きそうだから意外とすぐに仲良くなれそうだ。
残念ながらこちらが彼と仲良くできるのかは分からないものの、まあ一緒にはいられているからきっと変わる……はず。
「あれ、志津も端君もいないや」
「久間さんと約束をしていたの?」
「いや、約束はしていなかったんだけど……」
も、もしかして早速家に連れて行ってしまったとか……。
怖がり、考えすぎ屋、だけどその気になれば大胆に行動できる子でもあるからその可能性はありえる。
「さっきまで移動していたからベンチに座って休もうか」
「そうだね」
眞屋さんのことを好きになった理由はいっぱい教えられて分かった、言葉だけで教えられるよりもよっぽど分かりやすかった。
でもだからこそ余計に残念感がでかくなるというか、彼が柔らかい笑みを浮かべながら吐いていたからこそ引っかかってしまっているという……。
「自分でも驚くぐらいすっきりとしているんだ、もしかして気持ちのいいやり方を杉本さんが選んでくれたからかな?」
「Mだからだと思う、あのやり方は褒められるようなものではないから」
「Mか、純だからそういうことになるね」
はぁ、こういうところも微妙だ、自由に言っている私に対して怒ればいいのにそれをしないからだ。
こういう人間だったからこそ人が集まるということであっても同じ、みんなといないときぐらいは吐けばいい。
「あ、だからってきみに切り替えたというわけではないからね? 僕はあくまで友達としてここにいるんだ」
「安心したよ、そんなに簡単に切り替えられても困るもん」
テレビのチャンネルでもないのだからそれでいい。
それにお互いに時間つぶしのために一緒にいることは分かっている。
「ここはきみとの思い出の場所になりそうだ」
「そうだね、私はアピールもしていないのに振られてばかりだからね」
「ちゃんと言っておくことは大事でしょ? 勘違いさせたくないんだよ」
優しいからこそなのだろうけど振られるこちらはやっていられない。
今日は志津も端君もいないわけだからそろそろ帰ろうか。
家が嫌というわけではないし、お小遣いを貰ったことで漫画も少しずつ買えているからそれを読んで楽しめばいい。
「そろそろ帰るよ」
「待った、その前に連絡先を交換しよう」
「いいよ」
交換を済ませて公園をあとにする。
次からは眞屋さんにも一緒にいてもらおうと決めた。
くっつけたいわけではない、自分のために頼もうとしているだけだ。
「やっぱり変なことになっているよなぁ……」
なにが正解なのかは分からないけど私は私らしく過ごしていくだけ。
だからまあそんなに難しい話ではないのかもしれなかった。
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