りんが大きなため息をついた。

「意味がわからんな。……でも、その眼鏡でも視えないようにできてるんだったら、何でまた新しくしようとしてんだ。」

 言われてりんは今かけている眼鏡の縁をつぃとなでた。

「これ、縁がないぶん視えなくできる範囲が狭くなってしまって。……前のに比べて、やたら端っこからチラチラと視えて嫌なんです。」

「てことは、縁ありに変えるってことか?」

「そうしようかな、て思ってます。」

「ふーん。……その眼鏡買うのって、こないだ会ったお前の従兄弟の眼鏡屋?」

 倖がやや不機嫌そうに首を傾げた。

「そうです。慶くんが勤めてる眼鏡屋さんです。」

「てことは、その慶くんがこれを作ってくれてる、てことか?」

「そう、なんですかね?たぶん。」

「……お前、わからないことだらけじゃね?」

 倖が呆れたように言うので、だって、とりんは反論する。

「いろいろ聞いても誰もはっきりとは説明してくれないし、というか、みんなもわからないから説明できない、とか言われるし、」

「……みんなって、具体的には誰だ。」

「両親と叔母さんと、その息子の慶くん、です。」

「なるほど。……おまえんちって、みんな幽霊視えるの?」

「……視えません。視えるのは私と叔母さんだけです。」

「ん?慶くんてのは視えないのか?」

「視えない、て言ってましたね。」

「ふーん。あ、もう1個きいていいか?そういうのが視えるってことはさ、ほら、よく漫画とかであるじゃん。陰陽師とか、除霊ものとか、さ。もしかしてお前もそんなん出来たりするのか?」

 どこかワクワクしたような声音でそう問われ、りんはげんなりとした。

 除霊。

 そんなこどが出来たら、どんなにいいか。

「出来ませんよ、そんなこと。」

「そうなのか?うーん、……ひたすらあんなのが視えるだけって言うのも中々ツラいな。」

 辛い。

 改めて倖にそんな風に声に出されると、小学生の頃のことを思い出し不覚にも目頭が熱くなる。俯くと涙がこぼれそうだったが、顔を上げてその表情を倖に見られるのがイヤで必死で瞬きした。

 彼は話をしながらも食べかけのスイーツを手口に運びあっという間にペロリと平らげ、また袋の中に手を伸ばした。

「……倖くん、何個目ですか。」

「ん?ん~と、……5個目。お前は?」

「私は今やっと2個ですね。これ全部食べきれないんじゃ?」

「残ったらお前持って帰れ。」

 詫びの品だし、とスプーンを咥えたままもごもごと倖は言った。

 袋の中を見てみると、まだ3個ある。

「買いすぎですよ。」

「1人5個計算だから買いすぎではない。」

 そうして倖は美味しそうにマロンシュークリームにかぶりつく。

 倖くんを見てるだけで胸焼けがしてきそう、とまだ三分の一ほど残っている白玉のあんこクリームにりんは視線を落とした。

 せめてこれだけは食べないと。

 せっかく倖が買ってきてくれたのだし。

 これ以上、何も聞かれませんように、とりんは憂鬱な気持ちで白玉を口に入れるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る