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それを見て、意外とすんなり諦めてくれたことに胸をなで下ろした。しつこく問いただされたら、何と言って誤魔化せばよいのかわからない。
まさか、幽霊の臓器を拾っていました、などと言うわけにもいかない。
しばらくモグモグとコンビニスイーツを消化するだけの時間がすぎていった。
「そういや、眼鏡変えたんだな?」
「はい。……あの、気づいてたんですか?」
「気づくだろう普通。」
そういえば、眼鏡のことなど今の今まで忘れていた。ドキンと跳ね上がる鼓動に胸を押さえながら、似合いませんかね?とりんは小さな声で聞いた。
すると倖はギュッと眉根を寄せてりんを睨んでくる。
「俺、似合わないなんて言ったか?」
「言ってませんけど。何か自分で見てもあんまりピンとこなくて。似合わないかなぁと、」
「大丈夫。似合ってる。」
睨みつけたまま倖が誉めてくれた。
「よかった、です。」
先ほどのゴミ拾いの下りのやり取りで妙に緊張していたりんは、ほっとして2個目の白玉団子のパッケージを開け、一つ口に入れた。
「なんで変えたわけ?目ぇ悪くなったのか?」
「いえ、えーと、……そんな感じ、です。」
「ふーん、ま、前のも似合ってたけどな。」
倖がパクリとクレープにかぶりついてそう言ったので、りんは赤くなって俯いた。
漠然と思っていたことだが、たまに、たまぁに、ではあるが、倖はごくごく自然にりんを誉めてくることがある。
おかしい。
眼鏡かけてて可愛くないから倖の好きな女性ではないと断じられたり、眼鏡とったらちょっとはマシじゃないのかと揶揄されたり。
倖は結構はっきりと思ったことを口にするタイプだ。だから、こういう矛盾する意見を堂々と口にできるタイプではないと思っていたのに。
本人に誉めたおしている意識はないと思うが、慣れていない身としてはボディブロー並みの破壊力がある。
いや、でも。
〝似合っている〟とは言われたものの〝かわいい〟とは言われてないので、もしかしたら倖の中では全く矛盾はないのかもしれない。
それでも。
おそらく彼にとっては社交辞令に毛が生えた程度のものなのだとわかっていても、ポーカーフェイスを保つことができなかった。
りんは暑くもないのに右手でパタパタと頬に風を送ると、どもりながら話を続けた。
「あ、で、でも、また、変えようかなぁとは思ってます。この眼鏡、あんまり合ってないみたいで。」
「合ってないって、度数が?」
「いえ、度数は合ってるんですが、……何か、フレームががたつく、というか。」
「ん?デザイン変えるってことか?」
「そうですね、慶くんに相談したら、気になるんだったら早めにおいでと言ってくれたので。」
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