はい!とりんが元気よく返事をして顔をあげると、なぜか倖は運動場の方を必死に見ている。何かあるのだろうかと釣られて見ても、相変わらずサッカー部が走り回っているだけで特段目新しい物もない。

 倖に視線を戻すと、微かに耳も赤くなっている。もう大分寒いが蚊にでも刺されたのだろうか、と首を傾げた。

「倖くん?」

「あー、えーと、そうだ、そういえばお前、毎日毎日運動場で何拾ってたんだ?」

 倖は慌てたようにスプーンでりんを指して、わざとらしく別の話題を振ってきた。

「拾う?」

「拾ってただろ?で、何かあっちの花壇のブロック塀に置いてた。」

 りんを指していたスプーンで今度は左手奥の花壇を倖は指し示す。

 りんは驚いて、思わず持っていたスプーンを取り落とした。

「え?見てたんですか?どこから?」

「こっから。」

「……。」

 りんは倖にならって運動場を見下ろした。

 3階建ての校舎からはサッカー部員が所狭しと走り回っている。走り回っているのは見えるが、ここから個人を特定するには少々遠い気がする。

「それ、本当に私でした?」

「おまえだって。三つ編みとスカートが見えた。」

 三つ編みはともかく、スカート?とりんは呟く。

「だっておまえスカート膝丈じゃん。」

 言われて視線を膝に落とす。確かに膝丈だが屋上から見てスカートの丈なんて分かるもんだろうか。

 いや、しかし。

「……ご、ごみ拾い、です。」

 りんは不自然極まりない答えを倖に差し出しながらスプーンを拾う。倖が新しいスプーンを渡してくれたので有りがたく受け取った。落ちてしまったスプーンをコンビニの袋に入れたいところだが、それにはスイーツがまだたくさん入っている。りんは自分のリュックからゴミ袋用の小さなビニール袋を取り出すとゴミとなってしまったスプーンを入れた。

 すると倖は鬼の首でも取ったかのような顔で、りんの鼻先へとスプーンをつきつけた。

「ほらな。」

「なにがですか。」

「ごみ拾ったら、お前、持ち歩いてるビニール袋に入れるだろ。」

「……。」

「拾ったごみ、おまえが花壇のブロック塀に置くとかありえんと思うんだが。」

 何隠してんだ、と倖が目を細める。

「な、何も隠してませんよ!」

 動揺するりんに倖は前傾姿勢でにじりよってくる。

「ごみはもちろん、ビニール袋に入れました、よ?ここからじゃぁ遠くて見えなかったかもしれませんけど……花壇は、はな、花が、キレイだなーて、」

「……ほう。」

 コーヒーを、くびっと飲みながらも倖は視線を外してくれない。堪えきれず、りんの方がぷいっとそっぽを向いた。

「……じゃ、ま、いいや。」

 倖はそう言うと2個目のデザートへと手をのばす。

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