学校の屋上は、抜けるような青空が眩しく、目に痛いくらいだった。


 倖の自宅からパンダを引き取った数日後。

 りんは倖から、放課後屋上に来い、という果たし状のような内容の誘いを受け、そこへ続く階段を上っていた。

 屋上に続く階段は少し薄暗い。気味が悪いというだけでなく、いろんな意味でびくつきながらりんは無意識に眼鏡を押さえた。そうして恐る恐る登りきるとシルバーの大きめの両開きのドアがでんと構えている。

 普通の学校だと屋上へは出入り禁止であることが多い気がするが、この学校は特にそういったものはないのだろうか。付近に注意書きらしきものは見当たらない。

 取っ手をひねり扉を軽く押すと、ぐっと向こう側から押される感触があり、扉はびくともしなかった。

 もう一度、すこし強く押すと、中央に隙間が少し開くので鍵はされていないとわかる。

 気圧かな、と肩を押し当て更に力を込める。    

 ごぉっという音とともに風が吹き込みスカートと髪がバタバタと騒ぐ。扉は大きく外へと開いた。

 快晴だった。

 風も吹いているが今日はさほど寒くもない。

 扉を開けたときのような暴風は外に出てしまえば全くなく、薄めの青い空が頭上いっぱいに広がっている。教室の窓や運動場から見る空とは違う開放感に、りんは大きく深呼吸した。

 屋上は、とても気持ちがよかった。

 そのまま中央付近まで歩み出て、りんは呼び出した張本人の倖を探した。屋上は広いが、さして視界を遮る物があるわけでもない。しかし周囲に倖が見あたらなかったので、仕方なく今しがた出てきた塔屋をぐるりとする。それでもやはりいない。

 彼はHRが終わるとすぐに教室を出て行ったので、てっきり先に来て待っているものだと思っていたのだが。

 りんは端をぐるりと囲むフェンスに近づき、金網越しに運動場を見下ろした。

 スマホを確認すると16時00分をまわっている。時間的に見れば、今日もこの運動場のどこかであれが這いつくばっている頃合いだ。

 まぁ、眼鏡を外してどこにいるか視てみようなどとは決して思わないが。

 することもないので、見るともなしに右往左往するサッカー部員を眺めていると、そのコート内を正門の方から真っ直ぐに突っ切って走る、見慣れた金髪の男子生徒をりんは見つけた。

 倖だ。

 急いで教室を出ていったのは校外に出るためだったのだろうか。

 部員が縦横無尽に走り回るその空間を倖は何の問題もなく突っ切って抜けると、あっという間に校舎内へと消えていった。

 しばらくして塔屋のドアがガチャリと開いて、息を切らせた倖が現れた。

「わり、待たせたか?」

「大丈夫です。そんなに待ってませんよ。外に行ってたんですか?」

「ん、ほれ。」

 そうして倖が差し出してきたのはコンビニの袋だった。中を覗くと多種多様のコンビニスイーツが入っている。

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