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「お父さんて、可愛いものが好きなんですか?もしかして。」
「少女趣味っていうのか?なんか、フリフリとかそういう方面に走ってんな。」
と、大きくため息をついてみせた。
「お前の親父さんは普通だったよな。」
羨ましいぞ、とぼそりと付けたしてくる。
「そうですね。普通のおじさんだと思います。」
そういえば、以前父と倖は顔を合わせたことがあるんだったか、と、その時の父の挙動不審ぶりを思い出してりんは思わず笑った。
それからしばらくはとりとめもない話をして、ふとりんは先ほどよりもオレンジ色が強くなった窓の外へと視線を向けた。
それを目を細めて見ていた倖はドアの上部にある時計に目をやると、残っていたクッキーをビニール袋に入れ始める。
「最近、日が暮れるの早いしもう帰れ。これやるから。」
駅まで送る、と言いながら透明なビニール袋に入ったクッキーを手渡された。
わかりました、と素直に受け取りリュックを背負い直し立ち上がると、倖がブフッと吹き出す。なんですか、と胡乱げに見ればこちらを指差してまた吹きだした。
「だってお前、巨大なパンダ右手に抱えて左手にはお菓子の袋下げて、リュックって小学生みた、、ぶっくっく、」
笑い続ける倖を後目にパンダを元々入っていた灰色の大きなビニール袋に押しこみ抱えなおす。クッキーは割れないようにリュックの脇のポケットにしまい込んだ。
すると倖が、あ、と急に思い出したように机の引き出しをゴソゴソと探りだした。ほれ、と渡してくれたものは先程借りた物と同じ種類のリップ、の新品だった。
「やる。保湿しろ。あと、ちゃんと水飲め。水分不足でもかさつくんだぞ。」
「あり、がとうございます。……ホントにもらっていいんですか?」
ん、とぶっきらぼうに頷いてさっさと部屋を出る倖に、ゆっくりと続く。そのまま駅までパンダを持つという倖に、銀杏並木をゆっくり見ながら帰りたいから、と見送りを丁重に断って倖の家を出た。
通りの銀杏はまだまだ緑が眩しい。しかし所々に黄色く色づく葉っぱがちらほらと散見する。その色の移りゆく様子が秋の訪れを感じさせて、じっくりと見上げながら帰りたかった。
りんはかさばる灰色のビニール袋を、よいしょ、と抱え直す。
リュックの側面を探るとまだ開封されていないリップが手に触れた。初めて友達から貰い物をしたかもしれない。
友達、で、いいんだよね。
友達関係がこのまま続いていくのか不安ではあるけど、気軽に物をあげたりもらったりというのは、胸がこそばゆくなるくらい嬉しいものだった。
何かお返しが出来ないだろうか。
こういう場合何を返せばよいのか、さっぱり思い浮かばない。
お母さんに聞いてみようかな。
りんは銀杏を見上げて、その三角の葉っぱの一つ一つを視線で辿りながら、ふと、気づいた。
そういえば、倖の口から母親の話は、結局一つたりとも出てこなかったのだ、ということに。
後ろを振り返ると、銀杏並木の端にあの可愛らしいお家がまだ、チラリと顔をのぞかせていた。
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