「さすがに、倖くんが使ってる抱き枕をおうちに持ち帰って使う気にはなれません。」

「なんだと。」

 ちゃんと洗ってんぞ、と言う倖に、イヤです、と即答しておいた。

「……話し合いが必要だな。茶ぁでも持ってくっから座って待ってろ。」

「え、」

 すぐお暇するつもりだったのに、とりんが狼狽えているうちに倖はりんの横をすり抜けて階下へと行ってしまった。

 ……座ってって、どこに。

 6畳ほどのフローリングの室内は青で統一されていた。

 右奥にはベッド、真正面にはベランダがありその前に置かれた机と椅子。壁紙は紺色で落ち着いた雰囲気で、レースカーテンは縦の青のグラデーション。カーテンは端にまとめられているが上4/5が青灰色で下部は鮮やかな青だった。見れば布団も真っ青だ。

 よほど青が好きらしい。

 さすがにベッドに腰掛けるわけにはいかないし、かといって勉強机の椅子に座っとくのもおかしい気がする。

 部屋の真ん中には丸い濃紺のラグが置かれているが、人1人が座れる程度で座卓らしきものもない。

 消去法でいくとラグ一択かな、とそっとラグに座り込んだ。リュックを脇に降ろすのと同時に倖がドアを開けて入ってくる。

 右手に湯飲み茶碗や急須、菓子を載せた盆を持ち、左手には丸テーブルを器用に抱えていた。

「ん。」

 盆を取れ、と差しだされたので受け取ると、倖はテーブルの脚をだしセッティングする。そのままどっかりとフローリングに座り込んだ。

 りんは受け取ったお盆ごとテーブルへと載せると倖と自分の元に湯飲みを置き、急須から熱いお茶を注ぐ。2人してずずっと一口啜ると、ほぉ、と息を吐いた。

「暖まりますね。」

「暖まるな。」

 そう和みながらもう一口啜る。チラリと倖に視線をやると、りんは徐に口を開いた。

「私、どれか一つ持って帰るなら抱き枕を、と思ってたんですが。」

「抱き枕を持って帰ってもいいが、ぬいぐるみも一つ持って帰れ。」

「いえ、さっきも言いましたが抱き枕はもういりません。」

「……じゃあ、ぬいぐるみ持って帰れ。」

 倖は湯飲み片手に盆の上のクッキーをぽいと口に放り込む。りんもそれにならって一つ手にした。

「私、実を言うとぬいぐるみってすごく苦手なんですよね……。」

 さくりとクッキーを口にすれば、いくつでも食べられてしまいそうなほど軽い口当たりのクッキーだった。

「おいし。このクッキーすごくおいしいですね。」

「おぅ。親父が作った。」

「……そうですか。」

「ぬいぐるみが苦手って、じゃあ何でこんなに捕ったんだ。」

「そこに捕れそうなぬいぐるみがあったからです。」

「……おまえな。」

 倖が呆れ顔でりんを見た。

 筐体の森の中にいるときは多少興奮して、必要でないものも捕ってしまいがちなのは反省すべきところではある、と、わかってはいるのだけど。

 捕れるものは捕れるときに捕ってしまう、というのがりんのUFOキャッチャーにおける信条だ。

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