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正直に言うと、倖と一緒に昼食をとることに慣れつつあったので、またこうして一緒にお昼できるのは、嬉しい。ただ、あの件でものすごく迷惑をかけてしまったのと、一週間近く目を合わすこともなかったので、多少居心地が悪いのも確かだ。
あの時あの駅で軽く謝っただけで、しっかりと謝罪はしていない。帰りの道々に何度か口を開こうとしたのだが、倖の纏う空気の重苦しさに負けて、結局お互いに一言も喋ることはなかったのだ。
そしてそれからの一週間は言わずもがな。
きっと、今がチャンスだ。
りんは意を決して倖に向き直った。
「あ、あの!」
「ん?」
「あの、先日は、私が勘違いしたばっかりにご迷惑をおか」
「いやいいからそれはもう。」
途端に倖はぴしゃりとりんを遮り早口でまくしたてると、ギンと一際強くりんを睨んだ。倖が右手に持っていたツナマヨパンが軽くひしゃげた。
「いいんですか?ホントに?それって、だって、」
それは、いいってことは許してくれるって、ことなのだろうか。りんは倖をひたと見つめる。
倖はゴックンとパンを飲み込むと少し怯んだようにりんを見返してきた。
この人の行動と考えていることがよめない。あんな事があったのだから、怒って当然だ。そうしてここ最近の倖の態度から怒っていると思っていたし、だから、わかりやすく避けられているのだと思った。
それならそれで、また以前と同じ状態に戻るだけ。
それでよかった、のだけれど。
倖はまたこうしてりんの目の前でパンを食べている。
もう、怒っていないのだろうか?それともまたなにか、聞きたいことやしてほしいことがあるのだろうか?もやもやすることこの上ない。
りんは再度、口をひらいた。
「あの、怒ってないんですか?」
「あん?」
「怒ってしまったから、この一週間わたしを避けてたんですよね?」
「……怒ってはないけど、お前見る度に多少はむかついてたから、まぁ、……確かに避けてたかな。」
「……その節は、本当に申し訳ありませんでし」
「だっからいいってそれはもう!」
がしがしと頭をかきむしりながら倖が言った。
「あー、ほら、あれだよ、俺も若いからっつうか、なんていうか、……ここんとこ、無視してて悪かったな。……ムカついたからといって、取っていい態度じゃなかった。」
思いがけず倖の謝罪を受けて、りんはそっぽを向いている倖をあんぐりと凝視した。
箸の間からポロリとじゃがいもが落ちる。
「い、いえいえ!私も悪かったわけですから!」
「だよな。」
りんが慌てて言えば、すかさず倖が肯定する。
自分の口から出た言葉だったが、即頷かれると多少ムッとする。
「だから、まぁ、相子ってことで。」
これからもよろしくぅ、と倖は右手をさし出してくる。りんは箸を置くと、こちらこそ、と、とりあえず握手した。
そういえば、前にもこんなことあったな、とぼんやりと思いだしながら、落ちたじゃがいもをティッシュにくるんだ。
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