◇◇◇◇◇◇



 りんは既視感に襲われていた。


 目の前にぶちまけられた、総菜パン。その数7個。


 りんが大失態を冒したあの放課後から、すでに一週間以上がすぎている。あれ以来、倖から声をかけられることも、目が合うこともなかったのに。

 迫田さんからは、倖とケンカしたのか、と定期的に問われ。正直に話せば彼の名誉に関わると思い、あいまいに誤魔化していたのだが、早く仲直りした方がいいと心配そうに勧められた。

 その迫田さんに、倖にはもうかなり嫌われてしまっているはずだからこれ以上仲良くなることはないと思う、と話していたのに。


 なのに。


 何事もなかったかのように前の席にどっかりと座り込み、倖は無言で焼きそばパンの袋を破る。そしてなぜか睨みつけるようにりんを凝視しながら、器用に焼きそばパンにかぶりついた。

「飯、食わねーの?」

 睨みつけながら、そう聞いてくる。

 食べづらいことこの上ない。

 飯を食えと強要されたので、いただきます、とぽそりと呟き、弁当箱の片隅に入っていた焼きそばを一本、箸で器用に摘まんでちゅると口に入れれば、もうちょっと勢いよく食え、と文句を言われた。

「前も思ったんたけど、よくそんだけで足りるよな。」

 母渾身の力作、キティちゃんのキャラ弁を見ながら倖が言う。まぁ、確かに彼に比べたら、とんでもなく少ない量ではあるけど。

「そうですか?」

「うまそーではあるが、5分で腹へりそ。」

 なんと、5分で。

「小さい頃から、食が細かったみたいで、これで丁度いいくらいです。」

 倖はもぐもぐと勢いよく、次々と惣菜パンを平らげていく。細身の体のどこで消費されているのか、不思議ではある。

「胃が小せぇだけじゃねーの?無理して詰め込んでれば広がって食えるようになるって。」

「胃を広げる…?いや、私そこまでしなくても今で充分な量のエネルギー確保できてますよ。」

「そうか?」

 倖が眉根を寄せて不思議そうに言う。そうしてまた、パンの袋をバリッと破り口へと運んだ。

 その様子をりんは惚けたように見る。

「倖くんは、相変わらずよく食べますね。」

「ん。」

「パン、好きなんですか?」

「んー、米のほうが好き。」

「ではどうして、パンを?」

「安井パンがさ、閉店間際に脅威の7割引きセールするもんだから、親父が仕事帰りに大量に買ってくんだよな。」

 これ、全部で300円。

 と、少し得意気に言う。

 倖が指し示す机上には総菜パンがずらりと並んでいる。それは正規の値段で買えば1000円以上するはずだ。

 それを考えると、確かに、まあ、脅威だ。

 そうしてしばし沈黙が落ちる。

 りんはもそもそと箸を動かすのを再開しながら、黙々とパンを平らげていく倖をチラリと伺い見た。

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