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その様子をパンを食べながら見ていた倖は、やおら咳払いをすると、それはそうと、とあからさまに不自然な話題転換をしてきた。してきたくせに、なかなかその先を話そうとしない。
倖はしばし視線をうろうろと彷徨わせた後、意を決したように口を開いた。
「あ、のさ、おまえ、ちょっと、眼鏡取ってみ。」
「え?」
予想外にして唐突すぎる倖の頼みにりんは目を丸くした。
「眼鏡、ですか?」
「そう、眼鏡。」
パンを握りしめたまま身を乗り出してくる倖にたじろぎつつ、めがね、と口の中でつぶやく。
「眼鏡、って、私のめがねですか。」
「おまえの鼻にかかってる眼鏡以外の眼鏡をお前に外してくれと頼むわけないだろ。」
「……。」
またどうして急に眼鏡の話しになるのか。流れからしても少し飛躍しすぎではないか、と思ったとき、もしかして、とりんは閃く。
「……急にまたお昼ご飯一緒に食べようとしてきたのって、眼鏡取らせることが目的ですか。」
「……んなわけないだろ。」
「目そらして言ったって説得力ありませんよ。」
りんはその倖の様子にため息をついた。
前回は想い人の捜索のために、今はりんに眼鏡をとらせるために話しかけてきたというわけだ。
特に今回は理由が全く意味不明で、気味が悪い。
……いや、前回の連絡先騒動のときも意味不明で気味が悪かったが。
「眼鏡、あんまり取りたくないんですよね。」
倖はギュッと眉根に皺をよせて黙り込む。
「理由はなんですか。また言いたくないとか言いませんよね?……もしかして人捜しの延長ですか?」
「……延長といえば、延長なんだけどな。あー、のだな、彼女が、お前の家に入っていったのは、間違いないんだよ。」
「その件については、知らないって、」
「まぁ、聞けって。だからさ、ということは、その彼女がお前じゃないかって、柴田が言うから。念の為素顔を見とこうかと。」
何だ、そんなことか、とりんは大いに脱力した。
「残念ながら、倖くん。ありえません。」
「うん俺もそう思う。」
「……怒りますよ。」
倖はわたわたと手を振って、違う、と付け足した。
「99パーないと思うんだけど、可能性を一個一個潰してるというか、何というか、ほら、お前のいとこも違ったし……他に、もう、できることもないし。」
りんは腕組みをして倖を凝視した。藁にもすがる、というやつだろうか。できれば協力してあげたいが、よりにもよって眼鏡を外せ、とは。
頭が痛い。
「……できれば、外してあげたいところなんですが、無理です。」
「なんで。ちょちょいと外すだけじゃん。」
「……いやです。」
「変な顔でも笑わんから。」
「怒りますよ。」
りんは俯くと箸を手にとり食事を再開する。
「かわいくないのは、自分でよくわかってます。」
そう、前の学校でも散々からかわれてきたのだから。
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