何を言い出すんだこいつは、と、倖は胡乱な目で柴田を見た。

「だってさー、りんちゃん、縁なしの眼鏡にしたら大分雰囲気変わったじゃん。」

「……まぁな。」

 倖は渋々頷いた。

「縁なしかけてるりんちゃん見かけたときさぁ、すんごい、眼鏡取ってみたいって思っちゃったんだよね。」

 なんだそれ、と今度は倖が呆れて柴田を見る。

「変態か。」

「なんでだよ、倖ほどじゃないよ。ねぇねぇ、倖がさ、もうりんちゃんに興味なくしたんだったら、僕が直接聞いてみてもいい?」

 眼鏡とるお願いとおかしな行動の理由、聞いてきてあげるよ、と首を傾げた。

 それを聞いて倖が明らかに機嫌を悪くする。ぶすくれて口もへの字、思い切り眉もしかめている。

 なんてわかりやすい、と柴田は面白そうに倖を観察した。あまり感情が顔に出るタイプではないと思っていたのだが、こと一目惚れした女の子とりんのことになるところころとよく表情を変える。

 倖自身が、そのことに気づいているのかどうか。

 やがて、倖が嫌々仕方なくといった体で口を開いた。

「……わかったよ。俺が聞いてみる。」

「お!じゃあ、期待しないで待ってるよ。玉砕したら俺にバトンタッチね!」

 そう言う柴田を睨みつけながら、倖が微かに頷いたのを見て柴田は楽しそうににんまりと笑ったのだった。



  ◇◇◇◇◇◇



 倖は運動場を1人で歩きながら、柴田と話した内容を思い返し悶々としていた。

 柴田は沢ちゃんとデートの約束があると行って走って先に帰ってしまって、既に姿は見えない。

 校庭にはサッカー部も既にいない。時刻は7時半をまわっていて、人のいないコート内はすでに闇の中で寒々として見えた。

 倖は先ほどまでりんが立っていたあたりで足を止めた。

 毎度のことだが、何もない。

 倖と一緒に帰っているときには、あんな訳のわからない行動はしていなかったように思うのだが。

 けれど、ふと思い出す。

 そう言えば、この運動場でやたらと押されまくった気がする。……だから何だという感じだが、りんの不審な行動と言えばそれくらいしか思い当たらない。

 倖は大きくため息をつくとサッカーコートをそのまま突っ切って歩きだした。

 りんを避けているのは、別にあいつのことが嫌になったからとか、用済みだからもう興味ないとか、そんなことではないのだ。

 確かに『例の件』のせいで、りんをみる度に多少なりともムカつくし、なぜそうなった、と腹が立っているのも真実なのだが。

 改めて考えてみると、倖はりんになかなか情けない姿を晒してしまっている。そこに思い至ったとき、何やらものすごく居たたまれなくて顔を合わせづらくなり。

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