3
サッカーコートの手前で佇む女子生徒を、倖と柴田はパック飲料をズビビと啜りながら学校の屋上から見下ろしていた。
女子生徒は何をするでもなくコートの横にただ突っ立っている。
「なんか、毎日、何やってるんだろね。りんちゃん。」
「……知らね。」
柴田の問いに倖は興味なさそうな振りで素っ気なく答えた。その言葉に責めるような視線を向けてくる友人に気づいてはいたが、素知らぬ顔でやり過ごす。
そんな倖を呆れたようにみると、柴田は再度下に視線を落とした。
「サッカー部を見てるのかな?」
「さぁ?」
「誰か好きな人ができたとか?」
「知らん。」
「……おまえさぁ、ここんとこりんちゃんのことに関して、知らね、しか言わないけど。」
その柴田の言にも危うく、知らね、と言いそうになって、倖は慌てて言葉を飲み込んだ。
そんなことを言われても、知らないものは知らないのだから、仕方ない。
そのりんはまだ動かずに、コート横にぼけらっと佇んでいる。
……ホントに何やってんだ?あいつ。
りんと連まなくなったおかげで放課後することもなくなり、倖と柴田は毎日のように屋上でだらだらと過ごしている。しかしそうするとりんの行動がイヤでも目に入ってしまった。
とっとと帰宅すればよいものを、この一週間、花壇横で何かを拾う素振りを見せたり、かと思えば右手奥の野球場のあたりでうろうろしていたり。
今のようにサッカーコートの前で立ちすくんでいたり。
2、3日前も同じような場所で立ちすくんでいたが、あの時は、やはり何かを拾う素振りをして花壇横までわざわざ置きに行っていた。
そう。
何かを、わざわざ、置きに行っているように見えたのだ。
屋上からだとりんが手にしているものが見えないのかと思い、試しに花壇横を歩いて帰ったりしたのだが、彼女が何かを置いていたと思われるあたりには、どれだけ目を凝らしても何もなかった。
なんなんだ、いったい。
倖が半眼でりんを見下ろしていた、その時。
サッカーコートの中央で大きくボールが蹴られるのが目に入った。
それが緩く弧を描き、真っ直ぐりんに向かうのがわかると、倖は思わず金網を掴んで立ち上がった。
反射的に声をあげようとした倖よりも早く、サッカー部員がりんの方に走り込みながら何事かをりんに怒鳴った。
彼はボールとりんの間に入り込むと、りんにぶつかりながら胸でサッカーボールをタップする。そのまま足元に落とし込んだボールを思い切り蹴り上げコート内へと戻っていった。
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