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昨日はお互い話すことも視線が合うこともなかったから、ものすごく気まずかったけれど、とりあえず挨拶はした。蚊のなくような小さな声であったとしても。
倖はむっつりとした顔で、おぅ、と低い声で返事をするとスタスタと行ってしまった。
「ケンカでもした?」
迫田さんが心配そうに聞いてくる。
「ケンカ、というか、まぁ、いろいろありまして。」
「そっか。ま、つき合ってりゃそういうこともあるよ。」
「つきあってません!」
そんな恐ろしい勘違いにりんが必死に否定するも、まぁまぁ、と手をヒラヒラと振って取り合おうとしない。そうして、ところで、と彼女は話題を切り替えた。
「りんちゃんさ、コンタクトにはしないの?」
ぐいっと上半身を乗り出して間近で顔を凝視してくる迫田さんにたじろぎながら、りんは答える。
「何年か前に試したんだけど、めちゃくちゃ痛くて、断念しました。」
慶くんの強い勧めで試したことはある。1度だけではなく3度もトライしたというのに、結局痛くて目も開けることができなかった。
「そうなの?あたしもコンタクトレンズなんだけどさ、薄くて違和感もない新しいのも出てるよ?それだったら痛くないんじゃない?また、試してみればいいのに。」
「ん~、いとこにも、もう一度チャレンジしてみればと言われてるんだけど、まだあんまり勇気でないというか……。」
りんはごにょごにょと口ごもった。
「そんなに痛かったの??」
「激痛です。……あとは、痛かった、というのも、あるんですが……。」
さらにもごもごと口ごもり、煮え切らない態度のりんにかぶせるように、なになに??と迫田さんが問いただしてくる。
断念したのは、痛かったことだけが理由ではなかった。
コンタクトレンズは、眼鏡の端にちらりと視えるアレを100%視えなくしてくれる、りんにとって大きなメリットがある矯正用具だ。現に慶の母親である叔母はコンタクトレンズを愛用している。
なのに、断念した。その本当の大きな理由は。
「……眼鏡、取ると、あんまりかわいくないみたいで。」
「なにそれ?」
迫田さんは怪訝そうな表情で言った。
「かわいくない、というよりも、むしろ、恐い顔になってしまうみたいで。」
「なに、それ?」
迫田さんが眉をしかめて言った。
「なので無理にコンタクトにしなくても、眼鏡のままでいいかなと思」
「なに、それ!!」
迫田さんが驚きの表情で言った。
「なにそれ、って何が?」
その剣幕に引き気味にりんがそう尋ねると、あのね、と憤懣やるかたないといった様子で迫田さんが口を開く。
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