慌ててリュックから手をはなし教科書へと視線を落とすと、すぐ近くで挨拶を交わす明るい声が交錯する。やがてその声の主がりんの後ろの席へと到着した。

「りんちゃん、おはよー!早いね??」

 その声にりんは僅かに後ろへと視線をむけた。

「おはようございます、迫田さん。」

 チラリと見えた彼女は、珍しく似合いのショートボブを外側へと跳ねさせている。普段はきれいに内側にカールさせているのに。

 りんの視線に気づいたのか、彼女は頬を流れる一房を持ち上げると、眉を下げてそれを見つめた。

「アイロン、壊れちゃったんだよねぇ。櫛とドライヤーで必死に直そうとしたけど、無理だったよ。」

 舌を出して照れたようにそう言った彼女は、席につくとリュックを降ろしてりんの机上を見る。

「りんちゃん、予習?えらいねぇ……えび?」

 怪訝そうな彼女に、絵苦手だから!あは、と笑って誤魔化した。

 すると迫田さんが、あれ?と呟くとりんの方へと顔を近づけてくる。

「りんちゃん、眼鏡変えた??」

 い、いきなり気づかれた!

 ドキドキと視線を彷徨わせながら、意味もなく眼鏡に手をあてた。

「……い、いとこに、勧められて。」

「いいねぇ、いいと思うよ!すっきりしたし、明るくなったよ!」

 前の眼鏡も萌え萌え感じで、ストライクだったけどねぇ、と彼女は意味不明なことをブツブツと言う。

「あれだね。縁がないだけで、ずいぶん印象変わるね。」

「……変かな?」

「変じゃないよ、かわいいと思う。」

 迫田さんは馬鹿にするでもなく、ごく普通にそう答えてくれた。

 りんは拍子抜けしたように全身から力を抜いた。お世辞であるとわかっていても、ほっと安心した。以前通っていた学校ではこういう時、友人達からひどくからかわれたり、あまり似合わない、とばっさり切られたりしていたから。

 友人だから遠慮することなく、正直な感想を言ってくれているのだと思ってはいたのだが、それでも、次第に外見に変化を加えることが怖くなってしまった。

 だけど、何のてらいもない迫田さんの褒め言葉に、りんは素直に嬉しいと感じる。

「……よかった。」

 安心したように胸をなで下ろすりんを、彼女は首を傾げて不思議そうに見た。

 また教室の扉が開き、最近までよく一緒にいた金髪の青年が教室へと入ってくるのがチラリと見えた。

 倖は相変わらず眠そうな目で教室へと入ってくる。

 すごいもう金髪に戻ってる、と感嘆の視線を送っていたりんと、ふいに倖の視線が合った。

「お、おはよう、ございます。」

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