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「スッキリはしたけど、あんまりだったな。」
なんだよあんまりって、と柴田が呆れたように言った。
あんまりはあんまりだ。
あんまり、よくなかったのだ。
はぁ、と気落ちしたように倖が俯いた。
あんまり良くなかった上に、やけに虚しかった。
「で、どーすんの、次は。」
横をむくとフェンスに顔がつく。頬が網に食い込んで少し痛いが、冷たくて気持ちがよかった。
その冷たさを堪能しながら、どーしよっかな、とぼそりと呟いた。
「あのさー、ここまで来たら、りんちゃんに全部正直に話して、りんちゃん家に入っていった子のこと直接聞いたら?」
「聞いた。」
「おぉ、倖にしては素早い対応だね。で、なんて?」
「心当たりないってさ。即答。」
「……つんだな。」
「つんだ。」
これで手詰まりだ。
にっちもさっちも行かなくなった。
林田りんに、そんな子は知らない、と言われればそれ以上どうしようもない。
倖は少しずつ西に傾いてきた太陽をまぶしそうに見た。つい先ほどまで青空だったというのに、随分と日が落ちるのが早くなったものだ。
煙草をふかしながら見るともなしに徐々にオレンジ色に染まりつつあるグラウンドを眺める。
グラウンドではサッカー部やら陸上部やらが奇声を上げながら走り回っていた。
確か、両部ともに県内で上位の強豪校で、その練習はとにかく厳しいと有名だった。
夏の終わりとはいえまだまだ暑いというというのに、ご苦労なことだ。
校庭の内周、ブロック塀に沿ってランニングをする陸上部をなんとなく目で追っていた倖は、ふと視線を止めた。
左端の塀にある花壇のそばで、ランニングに巻き込まれた女子生徒が1人、走り抜ける部員の直中にいるのが目に入ったのだ。
立ち止まり、何とか横に抜け出そうと右往左往しているが、列をなして走る陸上部の隙間を抜けるなんてことが出来るはずもない。
やがて所在なげに立ち竦み列がぬけるのを静かに待ち始める。どうやら諦めたらしい。
陸上部員も走り去り棒立ちしていた女子生徒もまた、ゆっくりと歩き始める。
スカートの丈は今時の膝下で、ぶっといおさげが背中で揺れるのが遠目にもはっきり見えた。
林田りん、だ。
視界に入れば昨日のことが思い出されて腹がたつ。ちっ、と舌打ちして思いきり顰めっ面でりんを目で追った。
すると彼女は少し歩いただけで立ち止まった。しばらくすると、その場にしゃがみこみ地面に手をのばす。そうしてすぐそばの花壇のブロック塀の上へと手をのばす。またふらふらと違う方に歩いていっては、しゃがみこむ。
何、やってんだ、あいつ?
カバンを持っているので帰宅しようとしているのだとは思うのだが、やたらしゃがみこんでは何かをしている。そして、横の塀に手をのばす。
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