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「……。」
何も返事がないことに不安になりチラリと前を見ると、倖はあんぐりと口を開け手にした焼きそばパンをポトリと落とした。焼きそばがパンからきれいにこぼれ落ち、焼きそばパンは焼きそばとパンになった。
「……まじで?」
「まじです。」
りんがコクリと頷く。倖は放心したように前のめりに俯くと再度、まじか、と呟いた。そうしてゆっくり体を起こし、にんまりと嬉しそうに笑った。
「だよな。だーよーな。俺、頑張ってたもんな。」
一週間かかんなかったな、と倖はうんうんと1人頷き、よっしゃっ、と小さくガッツポーズした。
「よく考えたら、私が判断するのもおかしな話だな、と思いまして。」
「うんうん。」
「いとこもいい大人ですし。」
「うんう、うん?大人?……大人?」
「どうしたんですか?」
腕を組んで首を捻ると、倖は渋い顔で黙り込んでしまった。
「うーん、てっきり同い年くらいかと思ってたから。いや、でもまぁ、……お前のいとこが当たりってわけでもなかったしな。ダメ元で聞いてみたわけだし……。」
「ダメ元?」
「そ。探してるのがお前のいとこじゃないかなって目星をつけただけで。」
「じゃあ違う可能性もあるわけですか?」
目を見開いて驚いたようにりんが言った。これだけしつこく連絡先を聞いてきておいて、まさか適当に目星をつけただけとは。
捻った首を逆に倒して、倖は悲しそうに頷いた。
「ま、そうだな。」
だったら、とりんは鞄からスマホを取り出すと勢いよく指をすべらしはじめた。
「何やってんだ。」
「これって、先に写真とか見て確認した方がよくないですか?一緒に撮った覚えがあんまりないので、あるかわからないんですが……。」
スマホ内の写真を真剣に探すりんを、倖は手をあげ制止した。
「いや、いーや。連絡先は教えてくれる気になったんだろ?だったら自分で連絡して実際に会って確認するよ。」
「……そうですか??………母のスマホになら、写真、あると思うんですけど。母から送ってもらってもいいんですよ?」
「いーったら。何つうかほら、今あっさりと答え合わせしたくないっつーか、もう少し希望を持っていたいというか。」
「……希望?」
倖から飛び出した単語にりんは驚く。いや、薄々と、まさか、とは思ったりもしていたのだが。
「希望ってあの、それって、」
「振られんのもショックだけど、またどこの誰かもわからない振り出しに戻るのもショックだしな。」
倖は先ほど落としたバラバラになった焼きそばパンを器用に元の袋に戻しながら、ブツブツと小さく呟く。
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