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「ううん、倖くんの態度が悪いと思う。」
ごめんね、と再度頭を下げたとき。
「何でお前が謝る。」
声に驚いて倖の席を見れば、軽く頭をもたげてしかめ面でこちらを見ていた。
視線がばっちりと合ってしまったことに戸惑いながら、りんがようよう口を開く。
「……なんでって、倖くん、謝らないでしょ?」
「何で俺が謝らないといけない。」
「おちょくってるんですか?」
「うっせー」
そうしてまた机に突っ伏して寝始めた。
りんは動かなくなった倖に見切りをつけ迫田さんへと向きなおる。彼女は倖がひどくぶっきらぼうな対応をしたというのに全く気にした様子もなく、身を乗り出して内緒話をするように口元に手をそえた。
「倖くん、怖いね。」
と、なぜか嬉しそうに。
「そう?」
怖いね、という割にはニコニコとして本気で怖がっているようには見えない。優しそうな外見とは裏腹に意外と神経が図太いのかもしれない。
話題は今日の英語の単語テストのことへと移っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
昼になると、日課のようになったお昼を一緒に食べるために、倖がどっかとりんの前の席に陣取ってきた。
後ろむきに座りなおしながらバサバサとこれも見慣れた大量のパンをりんの机に落とした。広げていた弁当を心持ち手前にひきよせながら、りんは緊張にごくりと喉を鳴らす。
言うなら、今しかない。
早く済ましてしまわなければ、落ち着いてご飯も食べられない。
何でこんなことで緊張しなければならないんだろう、と思いながら、とりあえずご飯の真ん中の梅干しを一気に口に押し込んだ。
酸っっっぱい。
額に手をあててしかめ面をするりんを不思議そうに見ながら、何やってんだお前、と倖が呟いた。
「なんでもありません。気つけ、みたいなもんです。」
「弁当食うのに気つけがいんのか。」
「いや、弁当じゃなくて。」
りんは大きく深呼吸をすると、倖の目をひたと見つめる。
「な、なんだよ。」
「あの、ですね。あの、ここのところ、ずっと一緒にいたじゃないですか。」
「……おう。」
「倖くんといろんな話して、倖くんの行動とか見るにつけ、私なりに、ですね。倖くんて見た目と違って、すごく真面目なんだなぁ、と思ったわけです。」
「……まじめ?」
倖はなぜか嫌そうにりんの言葉を反芻した。
「まじめです。だって、毎日遅刻しないように学校来るし、体育着は予備まで準備してるし、授業もちゃんと受けてるし、」
「……何が言いたいんだ?」
「つ、つまり、ですね。熟考を重ねた結果ですね、んーと、私の直感もあるんですけど、」
「だから、何が言いたいんだ。」
倖はイライラとした様子を隠しもせずにかぶせてくる。りんは焦って視線を下に落とし蚊の鳴くような声でぼそりと言った。
「だ、だから、いとこの連絡先、教えてもいーかなー、て、」
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