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迫田さんは駄々っ子のように体を揺すりながら上目遣いで訴えてくる。人によってはうっとおしいと思われかねない仕草だが、彼女がやるとどうにも微笑ましい。
ショートボブのキレイな髪がサラサラと揺れ、あっけらかんとした物言いは悪気がなく、相手に仕方ないなぁと譲歩させる力がある。
これはきっと彼女の長所だ。
「図書館に。返す本があったから。」
「ん?そんだけー?他は?どこ行ったの?」
「えーと、図書館でだいぶ時間たっちゃって、真っ暗になってたから倖くんにおうちまで送ってもらったくらいで、」
「おうち?え、本当に?」
迫田さんは興味津々といった様子で問い返してくる。
「う、うん。……暗かったしね。大丈夫って言ったんだけど。」
首をかしげて真剣に聞いていた迫田さんが、うーん、と唸り何やらほくほくとした顔でにんまりと笑った。
「それって、何だかさ、愛されちゃってるねー。いいなー。」
いやちょっと待って。愛されてない。
「違う違う!あのさ、迫田さん何か勘違いしてるよ。倖くんとはそんなんじゃなくてね、」
迫田さんはちっちっちっと、人差し指を振り口を尖らせた。
「例えね?今何でもない関係でも、あの!倖くんが!女子をおうちまで送るなんて!」
りんちゃんを特別扱いしてるからに決まってるじゃん!と胸の前で固く手を組みうっとりとする。
いやだから、特別扱いって、特別の種類が、違うんだけれども!
「あ、ねぇ倖くん!」
ぼちぼちと増えてきた生徒の中、一際目立つ金髪が教室内に入ってきたのを目ざとく見つけて迫田さんが叫んだ。
驚いたのは周りのクラスメイトだ。ぎょっとした顔で迫田さんを見て、チラリと倖にも視線を送る。そのままガン見する勇気のあるものはいなかったが、それでも気になるのか皆チラチラと様子を窺う。
かく言うりんも昨夜の決意をいつ決行するかと悩んでいたので、倖の顔をまともに見れず視線を逸らしてしまった。
当の倖は無表情ですたすたと自分の席まで行くと、カバンを投げ出し机に突っ伏して寝に入った。
……さっき起きたばかりではないのだろうかと不思議に思うが、チラリと横目で見た倖はそのままピクリともしない。
「おーい、倖くーん。」
迫田さんが躊躇することなく再度呼びかける。倖はやはりピクリともしなかった。
「うーん、残念。」
倖くんにも昨日の話聞きたかったのになーと迫田さんが心底残念そうに呟いた。
「なんか、ごめんね、迫田さん。」
りんが謝る義理などないはずなのだが、いたたまれなくなって倖の変わりに謝ってしまう。
「いやいや、無視されるのは何となくわかってたし大丈夫だよー。」
と、迫田さんはあっけらかんと手をひらひらと振った。
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