じゃあ明日の寄り道は倖くんが決めてください、とつっけんどんに言うと、ものすごく嫌そうかつ死ぬほど面倒くさそうに了承してくれた。

 結局倖は自宅前まで送ってくれたのだが、そこで帰宅してきた父親に会ってしまったのは、ちょっと気恥ずかしかった。倖くんは慣れている?のか、スマートに父に挨拶し、暗くなったので、と断りを入れて帰って行った。

 そのときの父親の驚きようは、今思い出しても、なんだかやっぱり恥ずかしい。

 彼氏か、と聞かれたので、違う、と答えたがはたして信じてくれたかどうか。倖くんが金髪だったことが動揺を大きくしたようで、しばらく挙動不審だった。


 彼氏、か。


 彼氏ができたら、こんなかんじなんだろうか。

 りんがブクブクと鼻下までお湯に浸かると、またすぐに眼鏡が曇って何も見えなくなった。

 今まで彼氏ができたことはないけれど、こんな彼氏ができたらいいな、という自分の想像の男性とは、倖はかなりタイプが違う。

 違う、けれど、最初の印象とは大きく異なる倖の普段の様子にりんが毎日驚かされているのも、また事実だ。

 それに、倖を知れば知るほど、倖にいとこの連絡先を教えない、という理由付けが揺らいで胸が痛かった。

 信用度50%くらい、なんて偉そうに倖に言ったのは、つい先日のことだ。

 でも。


 もう、こんなことは止めにして早く倖に教えるべきなのでは。


 後ろめたさも手伝って、ぐるぐると同じことを考え続けている。

 連絡を取り合って、それから2人がどうするかなど、2人が決めることだ。もっと言えばりんは第三者であり、部外者なのだから。


 明日、あした。


 勇気を出して、みようか。

 りんはお湯から顔をだし、大きく息を吸った。

 長湯したせいで顔が火照って頭がぼーっとした。これ以上入っていたら、のぼせてしまう。

 今日はもう手早く洗って、あがってしまおう。

 眼鏡の曇りをキュッと一撫でして取ると、りんはゆっくりと湯船からあがった。



  ◇◇◇◇◇◇◇◇



「おはよー!りんちゃん!」

 教室に入ると、すでに席に着いていた迫田さんが挨拶してきてくれた。

 教室内の人はまだ少ない。皆が登校してくるにはまだ少し早い時間だ。

 りんは机にカバンを置くと後ろの席の迫田さんへと体を向けた。

「おはよう、迫田さん。早いね。」

「うん。今日一本早いバスに乗ったからさー。」

「あれ?バス通学なんだ?」

「そだよ。おうち市内だし。」

 それよりさー、とキラキラした目で迫田さんが切り出してくる。

「昨日、倖くんとどこ行ったの??」

「……あはは、どこってほどでもないんだけど、」

「えー、いーじゃん、教えてよー」


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