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「だっよねぇ……。あぁ、早く大人になりたい。」
「就職すんのか?」
確か柴田は国公立の大学への進学を目指していたはずだ。
けれど、まだ高2の秋。
進路変更なんてへでもないはずだ。
「……今、悩んでる。」
大学へ進学すれば、普通に考えて就職までにまた更に4年かかる。
その間に金回りのいい大人の男と出会ってお別れ、なんてことも十分以上にあり得るだろう。
「俺的には、しっかり進学してから就職したほうがいいと思うぞ。」
急がば回れ、って言うしな、と倖が呟く。
「それで別れちゃったら、僕どうしたらいいの。」
「知るか。……おまえ、俺が電車の子のことで悩んでるときには強気なアドバイスするくせに。」
「まぁ、所詮は人事だしね。……あぁあ。人事だったら簡単に判断できるのにぁ。」
「そらそうだな……。というか、そもそも、別れる別れない以前に沢ちゃんとはセフレじゃなかったのか。」
「……セフレ、だと思ってるんじゃ、ないかな。向こうは。でも、僕はさぁ、」
「就職とか進学とかより、まずそこをどうにかしないとじゃねーの?」
「わかってるよ、わかってるんだけどさ、……じゃあもう終わりにしましょうって言われたら、と思うとさ、」
そんなこと言ってたら何も出来んだろ、と口の中で呟き、まだひとりでぶつぶつ言ってる柴田を無視してよいせっと立ち上がる。口をへの字に曲げて雨の降りそうな空を見上げた。
予報では、天気が崩れるのは夜半過ぎ。
林田りんと放課後ぶらぶらしている間は降らないと思うが。
すると立ち上がった気配を感じたのか、背中を向けて転がっていた柴田が憂鬱そうな顔で振り返る。
「おまえもさ、そろそろりんちゃんにお願いしたら?連絡先教えてーって。」
「……そーだな。」
「仲良くなったらって、倖にしては充分仲良しになってると思うけどー。」
あぁ本当に人事だったら簡単に言えるのになぁ、とごちりながら、うりゃ、と勢いをつけて柴田は立ち上がる。そのまま倖を残してさっさと屋上から出て行ってしまった。
それを目で追いながら、だよなぁ、と倖はひとりごちた。
倖にしては、確かにかなり仲良くなってる方だ。
だが、りんにしてみたら?
倖は静かにため息をつく。それこそりんに直接聞いてみなければわからないことだ。
柴田が言うように自分のこととなったら、思考も行動もとまってしまう。
まぁ、とりあえず。
今日は、どこ行こ。
りんと連んで歩くのも連絡先を聞くまでかと思うと、少しだけ寂しい気もした。
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