ホームルームも終わり、さて一限目は何の授業だったか、とごそごそしていると、後ろから迫田さんが話しかけてきた。

「ねぇねぇ、りんちゃん。倖くんとホントにつきあってないの??」

「つきあってないよ。」

 迫田さんが不思議そうに聞いてくる。

「ごめんね、何度も。不思議でさー。」

「大丈夫。私も不思議な状況だと思っているから。」

「でもさー、」

 迫田さんは倖の方をチラリと見ると声を潜める。

「倖くんのああいうフレンドリーな一面、初めて見たから、何か新鮮。りんちゃんに優しいからあたしが話しかけても普通に返してくれそうって思っちゃうよ。」

「普通に答えると思うよ?」

 迫田さんは、いやいや、と手を振り困った顔で首を傾げた。

「返事してくれないと思うなー。りんちゃんと一緒だったらわかんないけど。すでにクラスの女子が2人ほど、玉砕してるしねー。」

「玉砕?」

 予想外の単語に思わずりんも声を潜めた。

 迫田さんもぐっと声を小さくして顔を近づけてくる。

「そそ。倖くんさ、りんちゃんと話してるときめっちゃ楽しそうだし。2人が話すの見てたら自分もいけるかもって勘違いしちゃうんだよ。」

 彼女は口に手を添えりんの耳元に寄ってくる。

「山内さんと篠田さん、倖くんに話しかけてガン無視されて、それでもめげずに食い下がった篠田さん、倖くんにすごい睨まれたらしいよー。」

 りんは驚いて迫田さんを見返した。たかだか話しかけられただけで何もそんな対応しなくても。

 それではクラスメイト全員敵にまわしてしまうではないか。

「篠田さんもあの倖くんに食い下がったなんて、根性は大したもんだと思うけどねー。相手が悪いよね。」

 篠田さん。りんはふと教室内を見回し彼女がいないか探してみる。

「あ、多分いないよ、篠田さん。彼女、昨日校庭で転んでさ。その後からお腹痛いって言って。今朝も腹痛が収まんないらしくて。」

 だから今日は休みだと思うよ、きっと、と迫田さんは神妙な顔でいった。

 早く治るといーんだけどね、と心配そうにする迫田さんにりんも、そうなんだ、と神妙に頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る