「何に、対して、謝っているか、だけどな。仮にもお前が友人だと思っている奴らをなじったことで、お前を怒らせてしまったことに対してだ。話を聞く限りあまりいい印象は持てないしそこは変えようもないが、お前に対しては、まあ、謝ろう。」

 やはり偉そうに倖がささやく。

 りんは首を傾げた。

 これって謝ってる?と再び当惑する。謝られているような、謝られていないような。

「……あ~、それから、お前が節操なく捕ったぬいぐるみをうちで預かってるぞ。」

 若干言いにくそうに切り出してきた倖の視線はりんの左後方あたりでうろついている。

「節操なく捕った覚えはないですけど、うーん、あげますよ?」

「いらん。」

「いらん、と言われても。私の部屋、引っ越しの荷物がまだ片付いてないし、置くとこないですもん。」

 倖は目を見開いて、じゃあなんで捕った、とぼやいた。

「邪魔ですか?」

「……おまえ、邪魔じゃないと思うか?ポッキッキーは食っちまったけど、あと3体巨大なのがいるんだぞ。」

「じゃあ、部屋片づくまで預かっておいてください。」

「……しゃあねぇな。早く片づけろよな。」

「やけに優しいですね。」

 りんは怪訝に思い首を傾げた。

 もっとこう、今日すぐに取りにこいとか言われるかと思ったのだが。

「そりゃ、まぁ、仲良くならないといけないし……。」

 倖はそっぽを向いてごにょごにょと口ごもる。

 りんは呆れて小さくため息を零して倖を見返す。

「……そんなにですか?」

「なにがだよ。」

「そんなに、連絡先欲しいんですか?」

「欲しいって、言ってんだろ。」

「理由はやっぱり、教えてもえませんか。」

「……教えねー。」

 倖はそっぽを向いて口をへの字にまげている。それでも若干照れているらしいことが何となくりんにもわかった。

 まぁ、照れる要素がどこにあったのかは全くわからないのだが。

「……わかりました。」

「教えてくれんのか?!」

 りんは慌てて大きく手を振り、否定の意を現す。

「そっちじゃありません!教えてくれないということに対しての、わかりました、であって!」

 途端に倖はしかめ面になり、ちっ!と舌打ちする。 

 偉そうにしたり照れたり喜んだりしかめっ面になったりと、忙しいことだ。

「舌打ちしないでください。舌打ち、嫌いって言いましたよね。」

「キライ言うな。」

 とブツブツ文句を言いながら倖は席に戻っていった。

 前の席の吉原君がホッとしたように椅子と机を元の位置に戻しはじめたので、すみませんでした、と頭を下げて謝った。

 吉原君は軽く頷いて何事もなかったかのように前を向いた。ついでにその前の席の鎌田くんと目が合ったので、彼にも会釈して申し訳ないとの意を伝えておいた。

 2人に謝り居住まいを正しながら、結局倖には謝ることができなかったな、とりんはぼんやりと思った。


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