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結論から言えば、りんの言葉は嘘ではなかった。
りんも倖も電車通学なのだが自宅がある方向は真逆だ。倖がよく行くゲームセンターは倖の自宅がある駅よりも一つだけ先に進んだところにあった。
最近のゲームセンターにありがちだが、この店もゲームの筐体よりもUFOキャッチャーとプリクラとコインゲームが幅を利かせている。
手始めにと倖が先にお菓子の景品に手をだしたのだが、1500円ほど使って1個も取れずに終わってしまった。
そうして追加で両替しようとしていたとき、それまで静かに見ていたりんが、動いた。
UFOキャッチャーてのはこうやるんですよ、とやたらかっこいいセリフを吐きながら1000円片手に両替に行ったのだ。
豊富なUFOキャッチャーの台数に目をキラキラさせて、目の前で機体にとりついているりんを見ながら倖は無言で冷や汗をたらした。
倖の手にはすでにりんが落とした巨大ぬいぐるみ?が3体ある。一つはやたらとリラックスしたクマ、一つは青い猫、一つは何かのゲームのキャラクターのエロいお姉ちゃんの抱き枕。
そして今りんが落とそうとしているのが巨大ポッキッキー。
……巨大系ばかり。
「……おい。」
ボタンにかすかに指をかけたまま奥のガラスに張りつき、真剣な顔をして景品を睨むりんに倖は声をかけた。
りんはぴくりともせずボタンをタップしガラスの中のアームの動きを注視している。アームは巨大ポッキッキーを少しばかり後ろにずらして元の位置にもどっていく。それを確認したりんはすかさず100円を突っ込んだ。
「……さっきから思ってたんだけどさ、500円、入れた方がいいんじゃないか?6回できるんだぞ。」
「必要ないですね。次でとりますから。」
両の手指を手術まえの医者のごとくわきゃわきゃと動かしながらりんは答えた。真剣な表情で再度ガラスに張りついていく。
「あのさ、これ、次で取れるのか?ていうかなんで巨大系ばっかりなんだよ。」
俺、もう持てないけど、とぶつくさ言う倖をちらりと見てりんは景品に視線を戻した。
「いま集中してるんで邪魔しないでもらえますか。」
邪魔……じゃまか?おれ。
倖はエロいお姉ちゃんの抱き枕を抱え直すと、ちょっぱやで景品ゲットして笑顔でガッツポーズを決めているりんに投げやりに拍手を送った。
「すげーな、お前。」
得意気に巨大ポッキッキーを取り出し、はい、と差し出してくるりんに向かって、倖はポツリと呟いた。
「だから、これ以上もう持てねーっつーの。」
倖はさっきからずり落ちてくるエロいお姉ちゃんを再度抱え上げ巨大ポッキッキーを右脇で抱えている青い猫と一緒に挟み込む。
「持てましたね。」
「持てましたねじゃねーよ。だから、何ででっかいのばっかり取るんだよ。」
「でかいのを狙ってるわけじゃないんですよ。1、2回で取れそうなのが、たまたまでかい景品だっただけで。」
「……?そういうもんなのか?」
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