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なのだが。
敬語で話してくるのだけがどーにも気になった。見たところ他の女子には普通にタメか丁寧語くらいなのが、倖には敬語。タメ口くらいにならないと、仲良くなったとは言えないのではないか。仲良くならないと、いとこの連絡先がゲットできないので切実だ。
ふぅ、と倖は軽くため息をついた。
今日は昼飯時から、どこに行く論議を繰り広げていたがあまり女と出歩かないので行き先を決めるのに苦慮していた。
倖が女と行くところといえば、ラブホテル一択なのだから。
そう、ラブホなら、けっこう知ってるんだけどな。
うーむ。
俺がよく行っていて、りんも楽しめそうなところと行ったらもうゲーセンくらいしかない。
ゲーセンか。こいつ、行ったことあるかな?
倖は隣で上履きを履き替えている林田りんを見下ろした。相変わらず量の多い髪を後ろで1つに三つ編みにしている。色は黒よりは茶色寄りなので、重すぎるということはない……か?
……いや、やっぱり重いしやぼったいな。
「おまえさー、ゲーセン行ったことある?」
「ゲームセンターですか?」
「ん。他に行くとこ思いつかん。」
「なるほど。私、得意ですよ。UFOキャッチャー。」
「うそつけ。」
「……なんで嘘と決めつけるんですか。」
「トロそうだから。」
上履きを靴箱に突っ込みながら倖が断言する。ローファーをつま先でトントンしながらりんはむっとした顔で倖をねめつけた。
「たぶん、倖君よりも上手だと思いますよ。」
「言ったな。勝負するか?」
「望むところです。」
「俺が勝ったらお前のいとこの連絡先教えろよ。」
「ダメです。何調子のってるんですか。」
「あのな、お前UFOキャッチャー上手いんだろ?ということはお前が勝つよな?じゃあ、連絡先教える約束したところでどうせお前が勝つわけだからお前は痛くも痒くもないわけで、」
「屁理屈こねないでください。」
「……屁理屈じゃねーよ。」
「行くんですか?行かないんですか?」
倖がごねている間に数歩先まで歩いていたりんが振り返って問いかける。
「行くけどさ。」
「じゃあ、とっとと行きましょう。」
そうしてりんがふわりと笑った。
それを見た倖は不覚にもどきりと胸を高鳴らせた。
言い訳はいくらでも思いつく。
西日で逆光効いてて八割増しに見えたとか、メガネっ子効果とか、見返り美人的効果とか。
それから、一瞬でもあの子と重なって見えてしまったこと、とか。
数瞬のちにはいつもの林田りんに戻っているのを確認し、何故か詐欺られた気持ちになる。
俺の胸の高鳴りを返せと胸中で毒づいた。
けどまぁ、笑えばちったぁかわいいじゃねぇか、と揺れるおさげを見ながら倖はりんを追って歩きだした。
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