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「じゃあ、一緒ですね。電車通学。でも、残念。反対方向ですねぇ。」
全く残念そうに聞こえない声音でりんは呟いた。
「……そだな。でもまぁ、お前の電車が来るまでつきあってやるよ。」
俺ってやさしー男だからな、と倖が嫌みったらしく言えば、いえいえお気遣いなく、とりんが素っ気なく返した。
駅への道を2人で辿りながら歩いていると、不意に通りがかったバイクに、倖がりんの袖を引っ張り電柱の陰になる方へと押しこんだ。
電柱。
そのグレーの柱の下に巻かれた黄色と黒の腹巻き。
その色に故郷でよく見た光景を思い出し、りんは思わず身震いする。
あれはまだ、視力もそこまで悪くなくて。
だからあれは、この眼鏡をかける前の出来事で。
気をつけている限り、こちらではきっと、遭遇する事などない。
りんが押し込まれた電柱を凝視していると、また袖をひかれて、今度は電柱の陰から引っ張り出された。
「……電柱、好きなのか?」
倖が怪訝そうに聞いてきた。
こんな物が好きかどうか質問されるくらい、自分は電柱を見つめていただろうか。
倖の質問にムッとして、半ば八つ当たり気味に、嫌いです、と断じて先を歩く。
そうしてハタと気づいて、後ろを歩く倖へとくるりと振り向いた。
「それはさておき、倖くん、あの、さっきは、ありがとうございまし、た。えと、……バイク。」
倖は驚いたように目を見開くと、お、おう、とりんと同じようにどもりながら返事をした。
結局その後も実のある会話などなく、りんの乗車する電車が到着するまで、2人だらだらと他愛のない会話を繰り返した。
倖は苦手な部類の人間だったはずだ。
はずだが、りんにとって思いのほか気負わない楽しい時間となったのも、また事実だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
りんと一緒に学校の玄関口までだらだらと歩きながら、倖は首を傾げた。
どうも、思っていた展開と、違う。
一昨日、りんと多少もめながら出かけた図書館は、駅と学校の中間あたりにある市立図書館だった。
毎日2度も通るというのに、倖がこの図書館を気にしたことなど全くなかったが、りんは転校初日に見つけて2日おきごとに本を借りているという。
彼女は倖に宣言した通り、ただ本を返却して取り置きしていたらしい1冊の本をさっさと借り、それから2人で無駄話しながら一緒に帰った。昨日は倖が用事があったので、昼ご飯を一緒に食べるだけにとどまった。
りんは倖が思っていた印象とは真逆で、割と話しやすい人間だった。一緒にいたら仲良くなる前にイライラしてキレるかもしれないと心配していたが、気も使わないでいいし、空気のごとく側にいる感じでとても楽だった。
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