牛乳のストローを咥えながら、よろしくぅ、と握手を求めてくる。

 ごつごつと骨ばった男の子の手が目の前に。

 男の子って意外と指長いのね。

 と、感心しながらぼーっと倖の手をりんが見ていると、んっ!としかめっ面で握手を促された。

 仕方なくおずおずと握り返すと、ぶんぶんと縦に振ってくる。

「よしよし。これでもう仲良しだな。」

 にんまりと笑うと4個目のパンの袋をびりりと破いた。いたずらっ子のようなその笑顔に少しだけ、胸が高鳴る。なまじっか顔がいいだけにどんな表情もかっこよいのだが、彼が見せる笑顔は格別だ。

 その格好からあまり得意ではない人種であるのは間違いないのだけれど、そんなりんでさえドキドキしてしまうのだから。

「でさー、」

 コロッケサンドをほおばりながら、倖が口を開く。

「どれくらい仲良くなれば、いとこのこと教えてくれる?」

 ど、どれくらい……??

「……、理由、聞いてもいいですか?」

「理由?」

「倖君がいとこに会いたい理由です。」 

 次の瞬間、パンをくわえたままの格好で倖が戸惑い気味にキョロキョロと視線を泳がす。

「あー、それ、聞く?」

 咥えていたパンを取ると、倖は頭をかいた。照れているようにも見えるが、今の質問で男の子が照れる理由というのは果たしてなんだろうか。

「……理由、言ったら連絡先教えてくれんの?」

「え?……理由によると言いますか、時と場合によるといいますか……」

「理由言っても教えてくれないんだったら、言わねー。」

「じゃあ、教えません。」

 りんが即答すると、途端にジトっとした目で睨みつけてくる。

「おまえ、それが仲良しの俺に対する仕打ちか。」

「仲良しじゃないです。」

「あ!そんなこと言う?さっき握手したのに!」

「理由教えてくれないのに、仲良しじゃないです。」

 なんとなくムカムカしてきて、そう言い放つ。

 倖は、ぐぬぬぅっと、さらにしかめっ面をして惣菜パンを口に運んだ。

「まぁ、それはさておき、とりあえず、今日は一緒に帰ろうな。」

「はい?」

 倖が不機嫌そうな顔をして唐突にそう言うので、意味がわからずりんは思わず首を傾げてみせた。

「仲良しじゃないみたいだから、仲良しになるために放課後遊ぶんだよ。どうせ暇だろ、おまえ。」

「……暇ですけど。」

「じゃ、決まりな。」

「ち、ちなみに2人でですか?」

「当たり前だろ。俺以外の誰かを混ぜて俺以上にお前と仲良しになられたら困る。」

 倖は謎の言い訳をしながら、6個のパン全てを平らげワシャワシャとビニールを片づけはじめた。

「食べるの早いですね。」

 まだ半分以上残っている自分の小さな弁当箱と比べる。

「お前が遅いんだよ。あ、箸すすまなくても全部食えよ。そんな立派な弁当作ってもらっといて、お残しとかありえねーかんな。」

 母ちゃん泣くぞ、と立ち上がり、じゃ放課後な、とやはりざわつく教室を意に介さずさっさと出て行った。

 誰のせいで箸がすすまなかったと思っているのか。

 りんは眉間にシワを寄せて考え込んだ。

 さっきの、いとこに会いたい理由を尋ねた時の倖の、あの反応。結局理由も言わなかったし、意味もわからない。

 うーん。

 タコさんウィンナーをパクリと口に入れ、天井を仰ぎ見る。カレー風味のウィンナーが食欲をそそった。

 考えてもわかんないことは考えないほうがいいのかもしれない。

 倖の言うとおり、母の弁当に集中して完食すべきだ。若菜のふりかけがかかったご飯を口に放り込む。

 うん、おいしい。

 母の愛情を感じる。その後からは食事に集中し、りんは黙々と手を動かした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る