その日の昼休み。

 一人で、誰に気兼ねすることもなくのんびりと母の愛情弁当を食べることができる平和な時間。

 と言えば聞こえはよいが、ようするに、只のぼっちだ。


 ……昨日まで、は。


 今日は、ぼっちではない。

 けれど望んだ形のぼっち卒業ではないし、第一これでは、放課後どこに寄り道しようかとか恋バナで盛り上がる、とかいう女子っぽい話もできない。

 緊張しているせいか、母の愛情弁当でさえ味を全く感じることができずに、もそもそと機械的に弁当を口へと運ぶりんとは対象的に、りんの目の前に座る彼は3個目のパンの袋を破り大きくガブリとかぶりついた。

「おまえさー、腹、減ってないの?」

 牛乳でパンを流し込みながら倖がそうりんに聞いた。

「いえ…、いや、そうですね、今日はあんまりお箸がすすまないというか…。」

「ふーん、そんなうまそーな弁当なのに。」

 もったいねーと言いながら倖はりんの弁当に視線をむけた。

 食の細いりんを心配して毎朝小さな弁当箱にいろいろと工夫をしてくれるのは母だ。クマさんのおにぎりに格子状に皮むきされたりんご。

 いわゆるキャラ弁だ。

 さすがにこの年になると少し恥ずかしいのだが仕事前に早起きして作ってくれるのを見ていると、恥ずかしいなどとは言い出せない。見られて恥ずかしいと思うような友人がいまだいないのは悲しいところだ。

 最初に母の力作弁当に気づいてくれたのが、まさか倖くんとは。

 あの手紙のやりとりの後、昼食時間になりひとり弁当を広げているりんの前の席に、倖はおもむろにドカリと座りざわつくクラスメイトを無視して、りんの机の上にパンをぶちまけた。

 その数6個。

 全部ひとりで食べるのだろうか…。

 全て惣菜パンで、焼きそばパンに玉子サンド、コロッケサンド…。それは見ているだけで胸焼けするようなラインナップだった。

 次々と勢いよくパンをたいらげていく倖をりんが惚けたように見ていると、ペロリと親指を舐めて、何だよ、と視線で促してきた。

「あの、一緒にお昼食べてるのってなぜなんでしょうか?…何か、まだ聞きたいことがあ…。」

 りんが最後まで言い終わらないうちに倖が右の手のひらをりんの鼻先に突きつけてきた。

「あー、あれだ。連絡先、教えてくれねーじゃん。おまえ。」

「…すみません。」

「いや、いんだけどさ、じゃない、よくないんだけど。柴田にさ、あー、柴田って隣のクラスの奴なんだけど、そいつにさぁ、友達でもないのに住所とか連絡先とか教えてくれるわけねーじゃん、て言われてさ。信用できないってことだろ?」

「…はぁ。」

 信用できない、という点ではものすごく当たっている。柴田くん、といえば、倖と仲のよい隣のクラスの男の子だ。迫田さん情報によると倖と仲の良いという。

「だから、仲良くしよーと思って。」

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