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「……おっけー♪」
なぜか楽しそうにそう返される。紙片を受け取ってくれたことにほっと息をつき、前をむく一瞬。
倖君と目が合いそうになり、慌てて視線を外す。目はあっていないけれど、やっぱりまだ、彼は睨んでいた、と思う。
が、しかし、終わった。
よかった。
なぜいとこの有無を聞きたかったのか、よくわからないけれど、これでもう睨まれることもなくなるだろう。
ほっと胸をなでおろして授業に集中しようと努める。壇上では生物の先生が何やら葉っぱの絵を必死に書いている。チョークで書いているのにやたらとクオリティが高い。あれを書き写さないといけないのだろうか。絵は苦手なんだけど。
とりあえず葉っぱの輪郭だけでも書くべくノートに向き合ったそのとき。
ツンツン。
また、後ろからつつかれた。
まさかと思いつつ肩越しにチラリと後ろを見ると、やはり楽しそうな迫田さんの顔が。
「倖君から!」
と力強い小声で紙片を渡してきた。そしてなぜか親指を立ててグッとしている。
……なんだろう。
会釈を返し、かさかさと紙片を開いてゆく。そこに書かれた短い文章を読み、りんは唖然とした。
『どこにいる?』
どこにいる?
誰が?
まさか、いとこが?
なぜ。
まったくもって意味がわからないが、返事をしないわけにはいかない。
『母方のいとこが同じ市内にいます。』
とだけ書いて、また迫田さんに渡した。小声でゴメンね、と謝ると、迫田さんは嬉しそうに、まかせろ!と力強く頷いてくれた。
……なんだろう。
りんはノートに目を落とすと葉っぱを書いている途中であったことを思いだす。先生は黒板のリアルな葉っぱの隣に今度はやたらと写実的な花びらと雄しべ雌しべを一心不乱に描いている。りんはシャーペンを握りしめ再度葉っぱに取りかかろうとする。そのとき。
つんつん。
先ほどよりも、早い。
後ろを振り返り、さっと受け取り会釈を返す。迫田さんはやっぱり楽しそうにしている。
『母方のいとこは引っ越しを手伝いにきたことがあるか。』
……。
『あります。』
一言だけ書いて紙を折っていたりんは、ふと手を止めた。
……これって、いつまで続くんだろ。
倖君は、私のいとこのことを気にしている。
これは、間違いない。
いとこの何が聞きたいのか未だにはっきりしないが、倖くんが納得できるまでこのやりとりは続くのではないか。
こんな一問一答形式ではラチがあかないのでは。
よし。
折った紙を再度開き、先程の言葉の下に、シャーペンを走らせる。
『聞きたいことがあるなら答えますので、一回ですむように一気に書いてもらえたら助かります。』
よし。
これで、よし。
1人満足して、手紙をまわした。
今度の手紙はすぐにはまわってこなかった。
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